NO,020

■ 野ゆき山ゆき海辺ゆき

11月

著者:高田 宏
出版:株式会社 徳間書店

夕暮れに街が見えるバーで17年以上エージングしたウイスキーを片手に一日の緊張を
解き解したい。そんな時、目を通す事で心を遠くに持って行きたくなる本である。

著者は、企業のPR誌の編集に携わりその後作家に。伝記や紀行文の分野で多くの著書を
著している。山歩きや海辺の街を訪ね歩き、景色とその地に住まう方との対話を通じそこに
違った角度での日本が見えて来る。

紀行文を多く著している著者のその地に住まう方の出会いの方法がおもしろい。
同じ町に数日滞在する事、そしてその町の小体な居酒屋に毎日通う事で2日目からは常連の
方と親しくなれるらしい。もっともその為にはそんな常連の方が毎日通って来るような居酒屋を
見つける感と匂いを嗅ぎ分けられるような修行・投資が必要となってくるのだろうが・・また、
自然に会話に溶け込めるような人品も必要と思われるのだが。

都市とそれ以外の町・村との時間のテンポは異なっている。ともすれば都市の時間のテンポで
物事を考え、行動してしまうが、もっと大らかな優雅な時の過ごし方がある。
ふっと見上げた空の雲を眺めながら思索の時を過ごし、小半刻ほど佇む事など普段は出来ない
ような事が自然の中ではたやすく出来そうである。
例えばバスの停留場で次のバスを待つ間とかに。

さり気ない日常の風景やその時に感じた自分の気持ちを心地よいリズム感のある文体と多くの
語彙を散りばめたその文章は、まさに散文であり上質のエッセーに仕上がっている。
心が解き解される。
書けそうでなかなか書けない文章である。







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空の写真 今月の本(2002)
面白かった本などを紹介します。
2002年に読んだ本の中からの紹介です。