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NO,001 |
■ 交通事故鑑定人S氏の事件簿
1月
著者:猪瀬 直樹
出版:株式会社 文藝春秋
ある時、自宅にひき逃げ交通事故の逮捕礼状を持った警官が来る。
そして、いきなり逮捕される。身に覚えがない事である。
また、左右確認をしたにも係わらず巻き込み事故を起こしてしまったら?
事情聴取で安全確認を怠ったと問い詰められ、起きた事態に困惑し、その場の
空気から、事実と異なる自己過失を認めざるを得なくなる。
そんな日常に潜むまさかの事態となった時、自分の記憶が絶対正しく過失は、
絶対認めないとあなたは戦えるだろうか?
延々と続く法廷で被告として、また事実、人が死んでいる状況の中で誰も明確
な証言を出来ず、物的証拠はあなたが犯人だと決めつけている人達である検察
側が握っている。時として、その物的証拠がその状況下では有り得ない物だと
わかっていても、それを証明する手立てが無い。
本書は、そんな刑事交通事故を第三者敵立場から専門家として再現実験や物的
証拠から解明していく交通事故鑑定人を取り上げたものである。
運転をしない裁判官、時としてデッチ上げを行う警察、交通事故を機械である
自動車の構造上の問題、この事が冤罪を生む背景にある。事実を追求する交通
事故鑑定人は、偽証する容疑者の嘘を暴く事もあるが、時として冤罪に陥った
人を救済する事にもなる。
著者はあるきっかけから、最晩年にある交通事故鑑定人と知り合う。
彼の真実を追究する心と著者の好奇心がひとつとなり、ミステリー作品のよう
なルポ作品に仕上がっている。「ミカドの肖像」で賞を取り著名作家となる前
の著者のいわば黎明期にあたる作品である。
この時期の著者は、社会に潜む落とし穴や稀な体験をした人を追いかける作品
が多い。インタビューを主体とした人間ウォッチングというドキュメンタリー
としての新鮮な持ち味を出し始めた頃の作品といえる。
しかし、怖いよね。いきなり自宅に警官が逮捕礼状を持ってきたら。
その後、半生を掛けて法廷で戦わなくてはならないんだから・・・
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