不味い!

NO,027

■ 不味い!

12月

著者:小泉 武夫
出版:株式会社 新潮社

以前にも書いたが、本のタイトルを見て???と感じ、思わず読んでしまい
それが結果的におもしろかったという経験がかなりある。今回のこの本も
「タイトル先行逃げ切り型」タイプの本としてはかなりの上位にランクする。

著者は歩く食の大全、小泉 武夫センセイ。専門は醗酵学だが精力的に日本
国内はおろか、世界各国様々な食を探訪している。その奥深い味覚の密林を
分かり易く紹介されている。その食の成り立ちや風土との関係食の知恵など
分析し学術的な裏づけと共に分かり易く楽しく美味しく語っているのだが、
この本で初めて真実が明かされる。
それは、けったいな食べ物を毎回美味しそうに食べていたセンセイ、実は、
「不味い!」だったのだそうである。

どちらかというと、ポジティブで楽しい内容を記する事は案外簡単である。
書きながら、自分の気持ちが高揚して来るしつい筆も走る。
多少の大袈裟も許される。また時として、その文章表現に自分はなんて天才
なんだと自己陶酔する事も可能である。
しかし、「不味い!」と宣言した以上これはネガティブな表現となる。
過去の苦痛な体験を思い出し、ともすれば落ち込んでいく自分を保ちつつ、
嫌な思いを読者に与えないように考慮しながらも、そのインパクトある本の
タイトルに似つかしい印象を強く与える文章を構築していく作業は、多くの
労力と勝負の気迫が必要である。

さて、本の中身だが世界中の珍料理31編が納められている。すでに他の本
で紹介された料理が多く、そちらで書かれた内容と比較するのも面白い。
また、ダイエットを実行しようと思う方には、ダイエットの副読本としても最適で
ある。何故ならこの本を読むと確実に胃液の分泌度は下がり、食欲が半減する
からである。それでも半減しない方は、見事、小泉センセイと同じ「ジュラルミン
製胃袋」の持ち主である。

最後に著者は、この題名を決めるにあたって不味い料理との対決を通じて、
初めて美味しいとは何かその本質に触れられると記している。
やはり、その道の第一人者になるのは、人知れないイバラの道を歩んでいく事
になるんだなぁ〜と感じたと共に結構苦労もあるのだと感銘を受けた本である。
















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2004年に読んだ本の中からの紹介です。