NO,013

■ 古くて豊かなイギリスの家便利で貧しい日本の家

6月

著者:井形 慶子
出版:株式会社 大和書房

イングリッシュガーデンって人気だよね。
道路と自宅の間の空間に四季の草花を植え、咲く花や葉の色彩の変化、花壇を囲うレンガの
風合い、そこに続く自宅とのバランス、そんなイギリスの前庭を真似ても日本での場合一軒
だけがイングリッシュガーデン化しても周囲からは浮き上がってしまう。
折角綺麗に作ったのに、周囲の家々と明らかに異なっているんである。

では、ある街並全体で行ったらどうだろうか。
イングリッシュガーデンでは見た事がないが、クリスマスデコレーションを町並み全体で、
行っている処を見る事がある。が、??となってしまう。
個々個性を前面に出していて、まとまりとか調和が感じられない。
基礎とか基盤といったもの共通性が感じられないである。
何故だろう?
それは住まいに関してイギリスと日本では、地域、公共性、住まうという思想、家族の在り
方といった考え方が根本から違う為ガーデンやデコレーションひとつ取っても浮き上がって
しまうのではなかろうか。

著者は、日本に滞在する外国人の為の雑誌を編集している編集者である。
10代の頃からイギリスに憧れ、40回以上もイギリスに出掛けている。
とうとう、イギリス風の家を日本で建ててしまった程である。
その著者が、イギリスの家事情を綴ったのがこの本。

歴史がある割には、古いものを捨て去る事が得意な日本人。
「消え逝くものの哀れ」と「全て水に流す」事が得意な日本人、今の快適さを追及する事を
最優先する日本人に対し、頑なに伝統を守り維持する事が好きなイギリス人、守り抜く事を
最優先する為には家のメンテナンスもまめに自分で行うイギリス人、この違いは住まいにも
現れている。
古くからの街並を守り、取り壊しをせずに100年以上も前の住宅の売買が行われるのが、
当たり前であり、公共性(パブリックスペース)を大切し互いがモラルとして維持し干渉し
合うイギリス人の考えは、廻りの干渉を極端に嫌う日本人とは対照的である。

住まいという文化について、著者はイギリスと日本を比較し日本の住まいに警告を発している。
家族の崩壊・家族の価値観の変化・人格形成の不十分な今の日本の住まい方・地域モラルの
欠如などなど・・
ところで、この本の中で、大変興味深い事が書かれている。
イギリスでは、住まう事に対して日本のような問題は無かったのか?というとそうではない
らしい。かつて1960年代に「バンダリズム」という社会問題がイギリスにはあった。
高層住宅に移り住んだ家族の若者が、街を壊し始めたのである。
時の政府はその社会現象を調査し、原因が今まで馴染んだ重厚な住まいから新しい建築資材
を使用したレイアウトも違う高層住宅に住まう事で、今までの対人関係が崩壊した事にある
と突き止めた。そして、築10年以下のせっかく造った高層住宅を取り壊し、昔からある家
を維持する為の支援をしたそうである。
日本とイギリスでは物の考え方も違うが、事件性の高い社会現象の現れは多くに場合住環境
の変化と劣悪性に問題はあるのでは無いだろうか?

著者は、こんなたとえを出している。
平飼いした鶏とゲージで囲われて身動き出来ない鶏を2羽広い場所に放したらどうなるか。
平飼いした鶏は、各々自分の好きなところへ一目散に逃げていった。ところがゲージで飼わ
れた鶏は、逃げずにその場で互いが死ぬまで闘っていたそうである。
今の日本にも同じ事が起こっているんではと考えてしまう。

イギリスでは築60年以上の住宅に人気があるらしい。きちんと維持され手の掛かった住宅
の価値は「成熟した家」というビンテージワインの評価にも似た価値に値するらしい。
これからの日本の住まい方を考える場合、イングリッシュガーデンや風格のある家といった
外見上の違いだけでは無く、住まう人の心の在り方まで踏み込んでイギリスの住まいと日本
の住まいを考える必要があると感じる本である。




















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空の写真 今月の本(2006)
面白かった本などを紹介します。
2006年に読んだ本の中からの紹介です。