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NO,003 |
■ 八百屋でぃ〜す。
■ 初夏と秋の棚田、夏の海へともう20年以上も通う西伊豆の宿には、夏しか味わえ
ない風物詩がある。初夏の鶯・畦の蛙・夏の夕暮れの日暮し・初秋の虫の音と日本
には様々な心を和ましてくれる音の風物詩がある。
が、ここ西伊豆では、ここでしか味わえない心を和ます日本の音の風物詩がある。
■ 夏の海、陽が真上に上がる頃、彼方からその音はやってくる。音がやってくるとは
変な表現であるが、正に「音」がやってくるのである。
姿は見えないが段々とその音は大きくなっていく。その音の音量がこれ以上大きく
ならない時、その全容が明らかになる。その姿は、軽トラックの形をしている。
■ 乗っているのは助手席におじいさん、運転はそのお嫁さんのようである。
「皆さん、野菜がいっぱいありま〜す。八百屋・・でぃ〜す。」
独特の間と声、イントネーション、一度聞いたら忘れないおじいさんの声である。
車が止まって野菜を売るのはお嫁さん、おじいさんはその間一度も車を降りずに、
マイクを握り締め、助手席からお客さんに話しかける。
「ありがとうごっざいま〜す。八百屋・・でぃ〜す。」
マイクを持って助手席に陣取る事が、どうやら人生最大の生きがいのようでもある。
その声は、たどたどしくちょっと情けなくマイクを握り締めて言うんである。
「美味しいトッマトもあります。買ってくっださい。八百屋・・でぃ〜す。」
■ これを何回か聞いていると、つい合唱したくなるんである。
トマトのフレーズの後、少し間が空く。で、4.76秒後にあのフレーズが出る。
さあ、皆さんご一緒に! 「八百屋・・でぃーす。」
■ ところで文字面ではわからないと思いますが、一度でも聞いた事のある方、または
これを読んでかの地に行かれてこの声を聞かれた方ならよ〜くわかると思います。
一度聞いたら忘れません。
■ いつまでも長生きして欲しいおじいちゃんである。
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