NO,002

■ お前ら、遠慮するなぁ


はるか昔の話を思い出したついでに、今回も小笠原でのお話。

ここは、ブーゲンビリアが咲き乱れ、ハイビスカスの赤い花の向こうには深い色の青空が
拡がり、椰子の木の先には豊かに波打つ海が拡がる。綺麗に整備されたアスファルト道路
に立ち、こんな夢のような楽園の空を見上げると「東京都」と書かれた道路標識がある。
これを見た瞬間、一瞬、頭の中が大混乱してくる。
そんな、常識では考えられないこの地では、日常常識では考えられないような事が起こる。

ここ小笠原に来たならば、食べてみたいと思っていたものに伊勢海老と島寿司がある。
どこで食べようかと思っていたら、母島で一緒の宿だった方がここ父島では民宿に泊まると
いうのである。それも漁師の民宿である。
UKIは、予め予約したペンションの宿があり、別々になったのであるが、漁師の宿であれ
ば伊勢海老も島寿司もあるであろう。出来ればお店の料理よりも島の人の料理のほうがより
本物であろう。と宿のご主人にお願いするよう口添えをお願いする。

さあ、こんな我がままを聞いてくれるだろうかと思っていたら「いいよ」との事、ただし、
一緒に漁に出ろという事になったらしい。これも貴重な経験である。
さあ、美味しい料理の前の一仕事、早朝港に集合である。
ここの漁師は、かじきの突きんぼ漁である。長い突きんぼ一本船に乗せ、いざ出船である。
「俺は、父島で一番の突きんぼ漁師だぁ、今まで船出して手ぶらで帰った事はないぞぉ」
どこでも漁師は荒い。特にここの漁師は荒くて豪快である。

で、船出す事1時間、流れの速い父島と兄島の間を流す。なかなか魚の姿はありません。
「おかしいぞ!こんな事は初めてだ。俺が船出すと魚が寄ってくるんだがなぁ・・・」
今日はどうやら海の様子がおかしいようです。
「どうなってんだぁ?ここの海には魚がいないのかぁ。ダメだ・ダメだ帰るぞ!」
魚がいない訳は無いとは思うんだけど・・それに船出してまだ2時間も経ってないけど?
とは言うものの海の上では船長の言う事が絶対である。おまけに島一番の漁師だしね。
船に積んであるバケツを蹴飛ばし、機嫌の悪い船長を乗せた船は、無言のまま港に帰る。

という訳で陸に上がり、お土産の酒を持参していざ宿へ。
さあ、楽しみのお時間である。待つことしばし、まず島寿司がやってきた。
テーブルの上に置かれてしばし、漁師宿宿泊者と二人、顔を見合わせる。寿司桶がでかい。
直径70センチはある。その中にずらりと並んだ島寿司、もの凄い数である。
お互い無言で島寿司の数を数える。その数、120カン!!
「あの、これ二人で食べろって?」
「そういう事だろうね」
「残したらどうしよう?」
「あの漁師のオヤジの事だから、むちゃくちゃ怒るだろうね」
そのうち、伊勢海老がやってくる。こちらもデカイ。南洋伊勢海老というんだろうね。
40センチはある。それも二匹も。
伊勢海老持って来た宿のご主人、寿司桶を前の圧倒されている二人を見て、
「お前ら、何やってんだぁ?遠慮せずに早く喰え!残すんじゃないぞ!」
この後、どんな思いでめったに食べられない食材と格闘した事か。これは拷問である。

何はともあれ、これ以上無いという思いを充分過ぎる程満喫した二人、空虚なまなざしで
窓の外の抜けるような青空を眺めている。もちろんお互い無言である。














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 心に沁みるお言葉
古来より、日本には言霊(コトダマ・コダマ)信仰というのがあります。
発した言葉自体が生命を持って何かを為すという考えです。
UKIの心に沁みたありがたいお言葉をお伝えします。