NO,003

■ 人使いの荒い島


続いて今回も小笠原でのお話し

ここには、奇妙な磁場がある。
風景も日本離れしているが、やってくる人間も日本離れしている。
ここに来るには1週間以上も休暇を取らなければならないが、そうまとまった休暇を取れる
人はまれである。大抵の人は、転職の間を狙ってやってくる。
転職というのは次に勤める会社にあるから転職というんである。
ところが、ここに居ついてしまう人が多い。6日間の予定が3年もいる人がゴロゴロといる
んである。皆、どうやって次の会社に説明してるんだろうね。
ゴロゴロしている人がいるという事は、それだけここには仕事があるんだろうなぁ。

父島の宿で一緒になった方がいる。宿はペンションだが、合宿宿のような二段ベットが並ぶ。
いわゆるドミトリーというやつである。ここで同室になった方である。
彼のここでの仕事は、果樹園での手伝いのアルバイトである。
楽しい南国での美味しいフルーツに囲まれた楽しいお仕事、彼もここで人生の予定変更した
お気楽人間と思いきや、話を聞いたらきちんとした人生設計をしているんである。
冷凍技術がそのうち確立したら、小笠原の南国フルーツを都会に出荷出来る。その時が来る
までここで技術を学んで独立するんだそうである。
当時は、ミバエの問題があって果物を出荷出来なかった時代の話である。
真面目に人生考えている人もここにやってくるんである。
そんな彼が、故郷での自分の写真を見せてくれた。「これ、僕の船」と言って見せてくれた
写真、そこには大きなヨットの写真が写っていた。何やら名古屋の大企業の御曹司らしい。
父親に事業計画を出して、ここに来たらしい。ただのお坊ちゃんでは無い。
色んな人がいるんである。

ところで、母島で一緒の宿となり、ここ父島で漁師船に乗りご馳走を共にしたお気軽青年、
彼は、どちらかというとゴロゴロ派の前者のタイプである。
何日かして、そんな彼と道端でばったりと出会った。
「何だかこき使われて忙しいんだよ」と彼。
「また、船乗っているの?」とUKIは聞く。
「船じゃないんだよ。車に乗ってる」
「運転手?」
「それが運転手じゃないんだよ」

詳しく聞いてみると、助手席に乗っているらしい。
運送助手かと思うところだが、違うんである。
ここには自動車教習所が無い。年一回本土から検定官が島までやって来て仮免許の実地試験
を行う。その場所は旧日本軍の飛行場跡地である。
ここに住んでいる方は自動車免許を取るには、教習所に通わないで一発免許に賭ける。とは
言っても仮免許の練習をする必要がある。もちろん小笠原とて一般公道で無免許運転は出来
ない。公道では無い旧日本軍の飛行場跡地で練習するらしい。
そこまで自動車を運転し、助手席に乗って運転の指導をして、帰りも運転する。
彼は、そんな仕事をしているらしい。なぜ、そんな事になったかと言うとくだんの宿の親爺
さんから良い若いもんがゴロゴロしていてはいかん!手伝え!という事になったらしい。

そんな彼が漏らした言葉、
「ホントに人使いの荒い島だぁ〜」














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 心に沁みるお言葉
古来より、日本には言霊(コトダマ・コダマ)信仰というのがあります。
発した言葉自体が生命を持って何かを為すという考えです。
UKIの心に沁みたありがたいお言葉をお伝えします。