猫絵の殿様


NO,022

■ 猫絵の殿様

11月

著者:落合 延考
出版:株式会社 吉川弘文館

大きな図書館には、人文資料館が併設されている。その地域に住まう著名人・文化人・
功労者などの足跡や古文書が保管されているらしい。その量は膨大であり基本的に寄贈
という形で地域文化が集積されている。
最近は、古文書フィーバーだそうである。旧家に研究者や好事家が訪れ古文書を見たがる
そうで、その対応も大変な事だと思う。また個人がそのような古文書を保管するにはその
保管方法が大変である。
そんな現状を考えると人文資料館に寄贈して文芸員の方にきちんとした保存と分類・研究を
して頂いたほうがよほど地域の為になるはずである。

そんな古文書を丹念に分類・研究した成果がこの本には詰め込まれている。
著者は、地元大学の教授であり図書館に通う事で古文書を解読してこの本を上梓している。
その対象は地元桐生の領主であり「猫絵の殿様」こと新田家一族である。その領主の膨大な
日記に目を通す事で当時の様子が浮かび上がって来る。
江戸時代の封建的なイメージが強い領主であるが、その中身はなかなか興味深い。
一言でいうなら領主・領民とも極めて日本的ないいかげんさで溢れている。

一例を挙げれば、不正を働いた名主を一般農民が領主に直訴をする。その内容を村役人が
調査し結果名主は、その職を解かれ追放となる。その後領主の守護している寺から特赦の
要望が出る。「言語道断」とその願いを領主は撥ね付けるが、再三に渡り断られても断られて
も要望が出され、結果領主が折れて赦される。
また、領主の裁定に不満を持った農民が勘定奉行に告訴したり一般に知られている領主の
威厳はまる潰れである。その結果についても軽い罰を領主が与えるだけで裁量は農民同士の
合議に任せるといった具合である。江戸時代は封建的と教わった覚えがあるが、任せるところ
は領民に任せるといった民主的な運営がなされている。また、領主は領民のモチベーションを
高める為に祭礼には率先して参加し領民の信仰に自らを預けるといった具合である。

今の理屈では、いいかげんであるが臨機応変に互いが主張し、任せるべきは任せるといった
その合理性には目を見張るものがある。
かつての先人がどのように考えどんな結論を出したのか、またその時領民はどんな行動したか
大変興味深い。

ちなみに全国の人文資料館では、教科書では教えてくれないこんな情報が溢れている。
この情報を知る事で、古の先人がどんな事を起こしたのか?地域の事を併せて考えたり興味は
尽きない。人文資料館からの資料を元にした研究書・紹介文が今後各地で多く著作されてくる
事を望みたい。








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空の写真 今月の本(2002)
面白かった本などを紹介します。
2002年に読んだ本の中からの紹介です。