味覚日乗


NO,023

■ 味覚日乗

12月

著者:辰巳 芳子
出版:かまくら春秋社

著名な料理研究家を母に持ち、自らも料理研究家が著す食に関連した日常の淡々とした
随筆集。自らも畑仕事をし、食の始めから終わりまで目を行き届かせた著者の視点で食
だけでは無く様々な事象について感じた事を「語らい」という形で綴っている。

いくつか例を挙げると
・ 雑炊を炊く時は、炊き上がったら挿水をしてさっぱりさせる。
・ 水から炊いていく貝の本来の旨みが困難となった今、蒸してから仕上げる味わいの出し方。
・ 一気に焼いていく玉子焼、卵の心臓焼き。
・ 青柚、金柑の使い方。
・ 青梅に重しを置いて汁を出し残った実をフードプロセッサで砕いて漉した梅肉エキス。
・ 初夏の生ものの温度は朝露の冷たさ。
・ 奇麗に洗って施した塩水に3日漬けまた新たに3日漬け再度漬ける茗荷の保存方法。
・ ムチャクチャ手間が係る小豆の漉餡。
・ 大好きな鯖のそぼろ。
・ 極付け鯖魚田、三枚におろした鯖を酒、砂糖、醤油、水、生姜の皮、山椒で炊いてさらに煮る。
その出汁で一晩寝かせた後、魚を焼く。たれは酒、八丁味噌と赤砂糖で濃厚として魚に塗って
焼き上げる。最後に粉山椒を降って出す。
むむぅ凄い!!
などなど手間と時間を掛けて料理を作るその姿勢には、人生を感じる。

本質な事、細かな気遣いといった実はとても重い内容の事柄を、淡々とやわらかい言葉で
主張しているその姿勢は、大正生まれの著者の人間性が溢れている。
また、スローフードの本質を問う事柄がさり気なく盛り込まれていたりする。
さり気ない精査された言葉遣いや語彙の豊かさ、その人間の知性と人柄が滲み出ている
文章である。おすそ分けをお福分けという日常の細やかな言葉の心配り、こんな文章が書ける
ようになりたい。









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空の写真 今月の本(2002)
面白かった本などを紹介します。
2002年に読んだ本の中からの紹介です。