黒船の世紀


NO,024

■ 黒船の世紀

12月

著者:猪瀬 直樹
出版:株式会社 小学館

高速道路民営化を巡り有識者7人から構成された民営化委員の意見書として作らない・
税金をむやみに投入しないという結論を導き出した。委員長辞任というゴタゴタが最後で
あったもののその結論を導き出した推進者の一人が著者である。

という訳で久し振りに読み返してみました。
著者の本に触れた最初の著作は「日本凡人伝」だったと思う。タイトルに反して全然凡人
では無い方がそこには登場する。
そんな方を取材したインタビュー本だったように記憶している。
本来はルポルタージュを主としたドキュメンタリー作家のジャンルに入るのではないかと思う。
この年代の人には記者・作家・写真家・映画作家などのドキュメンタリーを目指している方が
多い。仕事の関係でお酒を飲みながら話を聞くと本来はドキュメンタリーやりたかったと夢を
語るその周辺の商業関係の仕事をしている方が多い。
その面では、著者は同年代の夢を実現された数少ない生き残りといえる。またその手法は
けっして硬派では無い。初期の仕事場が「スタジオボイス」というミュージシャンのインタビュー
雑誌であったり、ある右翼の大物への緊張しながらの取材の際「おい、おまえどうせなら
こんな本を書け」と脅かされ「あのそれ僕書いたんですけど」とおチャラけて本音を聞き出し
ていくあたり新鮮に感じたものである。

「ミカドの肖像」で賞を取り、TVに顔を出すようになり高速道路民営化委員となるのだが、
その間の著されたのがこの「黒船の世紀」である。20世紀初頭、日・米両国で偶然にも
各々自国が負けるという結末を持った未来戦記が出版される。
著者の水野 広徳・ホーマーリーのその後の消息を軸に第二世界大戦に向かっていく20
世紀の心理を探っていく。

植民地政策の終焉・アメリカの仮想敵国キャンペーン・王国から民主化への革命・黄渦・
ユダヤ問題等入り交じった時代の流れの中で日本が戦争に押し進んでいく過程と、心ならず
も巻き込まれる人に注目した著書は、多分著者の指向である「人を軸とした時代検証」という
歴史の教科書といえる。

日本ほど自国のアイデンティティの欠如した国は無いのではなかろうか。その背景として敗戦・
復興・による価値観の消失、さらに気候風土があるとは思うが自国の歴史について日常会話
としてもっと語られても良いのではと思う。
その面でおもしろい歴史教育がもっとあっても良いのではないだろうか?
例えば、近代史・現代史として猪瀬氏、また古代・中世史として井沢氏の本が副読本として
あれば、教室で眠くなる事はなくなると思うがどうだろうか。

最後に「黒船の世紀」のサブタイトルは「ミカドの国の未来戦記」とある。多分出版社の思惑
だろうがこれからは「道路民営化の立役者・・・」なんてサブタイトル着けられるんだろうなあ
と思う。著者にとっては迷惑な話かも知れない。
しかし、「ミカドの肖像」以来著者の本は500ページを越えるものが殆どである。枕にするに
は手頃な厚さであるが、寝転びながら読むにはちょっと重いダンベル本である。









前のお話へ 次のお話へ


空の写真 今月の本(2002)
面白かった本などを紹介します。
2002年に読んだ本の中からの紹介です。