NO,012

■ 200万都市が有機野菜で自給出来るわけ

5月

著者:吉田 太郎
出版:築地書館 株式会社

ソ連が崩壊し、世界の緊張関係が変りその変化は様々な国に及んでいる。
社会主義を掲げた発展途上国は、特にその影響が大きい。カストロ率いるキューバもソ連
崩壊で大きな影響を受けた数多い社会主義を掲げる発展途上国のひとつである。
アメリカに最も近い社会主義国として、ソ連からの多大なる支援に優遇されたキューバは、
ソ連崩壊後支援はストップし、さらにアメリカからは経済制裁を受けてエネルギー難・食料難
に襲われた。
しかし、それを打破すべく都市住民参加の都市での有機農業を実践し、さらにバイオマスや
クリーンエネルギーによる電力確保を行って、今では環境先進国となっている。
そんなキューバを取材した東京都の農政の仕事をしている著者のレポートである。

教育熱心な社会主義国として有名なキューバは、経済変化に迅速に対応して様々なプラン
を立上げ市民が積極的に参加する事で今では食糧自給率が大幅に改善された。
今まで完全配給だったものが明日から食べるものが無くなるという緊急事態に対してはまず
自らが野菜を作るしか無かったのであろう。

現在に至るその道には、いくつかのステップがある。
まず、完全配給なので市場が存在しなかった国に闇市が立ち社会主義の第一義である完全
平等が崩れる。この事態に立ち上がった国は、市場を設けて、農業組合から野菜を販売する
ように指導する。
ところが、計画生産だった農業組合は、現状のコストを積み上げて価格を設定したので、闇市
よりは価格は安いものの低賃金の市民の収入では買う事が出来ない。そこで政府は、農家の
個人販売を認めお店を出す事を、許可する。おかげで価格は下がったもの、それまで輸入に頼
っていたおかげで絶対量が足らない。

そこで市民は、自分で野菜を育てる事に自然となった。さらに市民が自分で育てた野菜が余っ
たら農家の経営するお店で販売する事を認め、税金を免除する。結果、安い野菜は順番を待っ
て並んで購入する人や、すこし裕福な人や観光客向けのホテルは農業組合の市場で購入する
事で自給が可能となった。
それを農村では無く、都市で自給可能にしたという事は大変な事である。

本書の中で興味深いのは、エネルギー・食料の輸入ストップと同様に医療品がストップされた時、
野菜と同様にハーブを主とした薬草を育て医療に活用した点である。西洋近代医学では無くまた
漢方に近いが決して漢方では無い薬草が多く見られる。一例を挙げると解熱にはレモンユーカリ・
オレンジミント高血圧には、ニンニク・バジル・レモングラス、頭痛にはカリーリーフ・カンゾウ・バー
ベナ、便秘にはタマリンド、リュウマチにはアニス・トウガラシなどである。

現状の危機に真正面から迅速に立ち向かいそれを克服したキューバの手法は、エネルギーや
食料を輸入に頼る日本にとって真剣に研究して日本なりのシュミレーションを作る必要がある事
を考えさせる本である。











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空の写真 今月の本(2003)
面白かった本などを紹介します。
2003年に読んだ本の中からの紹介です。