NO,019

■ スミソニアンは何を展示してきたか

7月
 
編者:A アンダーソン A L ケプラー
訳者:松本 栄寿 小浜 清子
出版:玉川大学 出版部

伝統とはどのくらいの熟成期間を必要とするのか?また、伝説とは同様にどのくらいか?
また歴史とは?と考えると、伝統は蓄積された正当性を考えると3世代150年、伝説とは風化を
超えた時間を考えると500年、歴史とはまず訳がわからんものをその時代で再評価する期間を
考えると1000年という時間経過が必要かとUKIは考える。
伝統・伝説・歴史とは同時代に生きた人間が死絶えた後の再評価という事となるのであろう。

では、その歴史が400年しかない国アメリカで歴史を記憶に留める行為を考えると歴史が
ある国の博物学とはおのずと異なってくる。そんな、かつて誰も船出した事の無い新大陸の
記憶を留める作業を担っているのがアメリカ国立博物協会=スミソニアン協会である。

自己を客観視するという言葉があるが、その担い手が人間である以上主観が影響する可能性
は否定出来ない。その意味で、自己を俯瞰的に見た上で自己の再検証をしたのが本書である。

歴史までは届かない自己の国の記憶を、伝説と象徴化する事で共感出来る空間を提供すると
いった独自手法を用いざるをえない当博物館の宿命とそれがある為に大変ユニークな手法を
取る同協会は、記憶の節目を象徴的に時にセンセーショナルに発信し続ける。
様々な失敗や恥部・物議を醸し出す議論も、記憶を記録するという本来の手法にのっとって
実践するスミソニアンのスミソニアンの為のスミソニアンの記録書である。

本書には、いくつかの展示品にまつわるエピソードが綴られる。その中で最も興味深いものが、
ライト兄弟に纏わる物語である。
約30年に渡って争い、アメリカの宝である世界初の有人飛行機キティーフォーク号がなんと
イギリス大英博物館に収められ、その後決着がつき、ワシントンのスミソニアン博物館に収め
られたが、スミソニアンの対応ひとつでいつでも引き上げる事が出来る契約となっている。
なぜそうなったか?詳しくは本書を読んでください。
意地とプライドと名誉をかけて闘うには、一生掛けて争う意思が必要とされる事がよくわかる。

本書を通じて歴史の無いアメリカの記憶を留めるその拠り所は「真実の追求」である事が良く
わかる。その時代どんな事が誰から発せたれたかまたその評価は見る人に委ねられる事である。
また、スミソニアリズムとして象徴的な言葉が同博物館長官の言葉に対してメディアからの
言葉が寄せられている。
その内容は、「多くのスミソニアンの所蔵物にいえる共通した事があるなら、それはその当時
たわいない意味の無い物として扱われた物である。」歴史の真実とはそんなものである。







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空の写真 今月の本(2003)
面白かった本などを紹介します。
2003年に読んだ本の中からの紹介です。