藤岡屋ばなし
続藤岡屋ばなし


NO,028

■ 藤岡屋ばなし

11月

著者:鈴木 棠三
出版:株式会社 新栄堂

いわば江戸時代の「にちゃんねる」ともいうべき時代の記録書である。
貸本屋を生業にしていた藤岡屋こと須藤 由蔵、外神田の往来で貸本業を営む傍ら
多くの噂話・世間噺を収集して詳細に記録して本と成す。これが江戸勤めの藩士
や商いで江戸にやって来た商人などの江戸土産となって結構売れたらしい。
そんな、藤岡屋ばなしを現代語に翻訳し、時としてはニュアンスを伝える為に、
原文を引用して時代背景とともに解説したのが、本書である。

藤岡屋由蔵、大変こまめである。より正しい情報を記する為に20年前のはなし
の後日談あれば遡って添削する。また、どんな事にも首を突っ込む。そんな意味
では、公文書ならぬ決定版巷噺である。

時代劇や時代小説の題材やヒントとしてこの原本はかなり使われている。困った
時のネタ噺である。時代は享和から天保・幕末と江戸時代といってもかなり後期
の噺である。巷の噂噺であるので多分に胡散臭いところがあっていい味を出して
いる。また、噺の最後には藤岡屋由蔵自作の川柳が付いており、あまり上手では
無いこの駄洒落の川柳もなかなかの味である。

江戸っ子も、今と同じように時々変なものが大流行する。例えば個人宅の稲荷が
ご利益があると噂が噂を呼んで行列が出来る。が数ヶ月もするとその流行も去り
また次の稲荷に移っていく。また「出開帳」といって地方の秘仏を持ってきて、
特別公開を行う興行主が現れる。さながら今の特別絵画展みたいなものである。
また、その興行を巡って利権争いが起こったりと大変人間臭い。

こういう市井のいわゆる「世話物」というのは今の週刊誌同様、日本人にとって
大変楽しみな娯楽だったのであろう。










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2003年に読んだ本の中からの紹介です。