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NO,003 |
■ うろんなり助右衛門
2月
著者:冨森 叡児
出版:草思社
年の瀬を迎えると毎年恒例のごとくベートーベンの「第9楽章」と「忠臣蔵」が巷を賑わす。
UKIの場合には、これに池波正太郎の「鬼平犯科帳」が加わるので大変忙しくなるのだが、
どうやら日本人にとって「第9」と「忠臣蔵」は年末の必須アイテムらしい。
「忠臣蔵」赤穂浪士の末裔である著者が、古文書を調べ先祖の「冨森 助右衛門」とその
末裔がどのように過ごしたかそんなルーツ探しの本である。
神学博士第1号だった父とその父が誇らしげに語る赤穂浪士であった先祖へのちぐはぐな
違和感。新聞記者であった著者が、仕事の経験を活かした取材の結果断絶した家系が幕末
の反徳川気運により再興された経緯や芝居・近代の作家によるいわゆる「忠臣蔵」ものに
書かれた事と事実との比較。
また、その末裔特に血の繋がった祖父や父の人生をかなり客観的に描いている。
再興とあるように「冨森 助右衛門」との血縁は無いが、冨森家という家名を繋いでいく自身の
意味付けを赤穂浪士という日本中に知られた先祖を探る事で再確認する旅の記録でもある。
忠臣蔵は客観的に考えると「報復行為」であり「対象を限定したテロ」でもある。
が忠臣蔵ファンの方は多分、忠臣蔵46士や脱盟した多くの赤穂浪士の生き様を自分がその
立場となったらどうするかと考えるのだろうし、そこから共鳴を得るのだろう。この点で500人
以上もの登場人物がありその生き方に共鳴するものの、あまりの人数の多さからか心の中
までの共鳴にまでは至らない「三国志」とは似ているだが、まったく異なる。
日本人の濃縮されたエッセンスが「忠臣蔵」にはある。
著者は、それを「共同幻想」と呼んでいる。革命には参加しないが、特定の対象への破壊行為
には声援を送る日本人の特質は不条理な閉塞感を打ち砕くアンチヒーローに自分自身を置き
換える事で「自分も参加した気になる」バーチャル体験が好きな集団なのであろう。
最後に父が神学博士第1号となった経緯が、進学するお金が無く奨学金が出る神学校に進ん
だ事、また説教が不得意の為、指導する先生となり、結果神学博士第1号という歴史に残る
結果となった「動機が不純」と「不条理な人生」には思わず笑みが出る。
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