NO,006

■ 人と火

3月

著者:最首 公司
出版:株式会社 エネルギーフォーラム

これからのエネルギー資源はどうなるのだろうか?

誰でも一度は考えるこの問題をアメリカ・イギリスを主体としたイラク攻撃を切り口にその
背景にある石油利権と、日本のエネルギー事情を説いた元新聞記者で中東に精通した
著者ならではの精緻なレポートである。

前半は、第二次世界大戦後の植民地政策から解放された中東を石油を軸とした自立の
道とその戦略を、各地を巡り各首脳へのインタビューを元にして伝えている。また中東内
の対立とユダヤ・アメリカとの関係、西側各国や中国の石油発掘利権と中東との関係、
また日本の石油への歴史など教科書や新聞では触れら
れていない事情やその相互関係などかなり詳しく述べられている。
中盤は、原子力を軸とした脱石油に対する各国の取り組みなど北欧諸国を中心に現地を
取材した記録と日本の第二のエネルギーへの現状の取り組みを述べている。
最後は、今後の日本のエネルギー政策のあり方について従来の高度成長期の資本主義
的な考え方からの脱却を説いている。

著者の論理的でかつシステム思考は、今の日本人に最も欠けている”ロジック”ではない
だろうか。例えば海外からもたらされるビジネス理論はそのまま日本には当てはまらない
場合が多いが、大半は、神社のお札のごとく当てはめようとする企業が多い。そんな中で
著者の述べている内容は、日本では数少ない日本のビジネス理論として参考となる部分
が多い。
また、1+1=2といった足し引きではない1と1が3になり4になるといったシステム思考で
事象を考える事はオカミから下々まで日本ではまだ理解されていない事が多い。その結果、
世界から見た場合に、日本は非常に理解し難い存在と見られるケースが多いのではないの
だろうか?

生産性や収益が、労働時間とイコールといった従来の経済論理から数量化出来る部分と
生きがいやモラルといった本来人間が欲する動機付けの部分をいかに組み合わせる事に
より収益が決定するという理論、
またその数量化出来ない部分は、時代によって変化するベクトル指向を加味して判断する
必要がある点などUKIが共鳴する部分は大きい。
また、エネルギーについても日本が自前でなんともならない現状を点として考えるのでは無く、
長期的な思考で考えていく事、またそれは今後の農業のあり方と同様に労働対比としての
生産性や収益という工業思考とは異なった、文化事業としての掌握が大切であると著者は
説いている。
この考え方はエネルギーにしても農業にしても、生活の根幹を成す産業を健全に継続させる
点でとても大切な事であり、ともすると高度成長期に収入格差が生まれ、結果収入のみに
走る日本のあり方に疑問を呈している。
バブルが弾け年間交通事故死より多い自殺者を出す今の日本を考える格好のテキストである。









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空の写真 今月の本(2003)
面白かった本などを紹介します。
2003年に読んだ本の中からの紹介です。