イタリア味の原点を求めて


NO,008

■ イタリア味の原石を求めて

7月

著者:バートン・アンダーソン
訳者:塚原 正章・合田 泰子
出版:株式会社 白水社

「世界中どこで何時食べても同じ味」を謳い文句に躍進するハンバーガーチェーンがイタリア
に進出した際、食による侵略だとして立ち上がったのが「スローフード運動」である。
たかだか空腹を満たすだけの行為が、なぜ侵略とまで言うのかUKIは興味を持った。それ
以来政治と同等または、それ以上に食べる事を人生の大切な要素として考えるイタリア人の
思考やフランス料理が確立したその基を提供したイタ飯とは、何なの?とイタリア料理関係の
本をよく読むようになった。その中で、食にこだわるイタリア人の根っこにかなり迫っていると
感じた数少ない本が本書である。
伝統的なイタリア料理を守っている12種類の食材を追いかけた、イタリアワインの評論では
右に出るものがいないワインライター ロバート・バートンのイタリア食の探訪記である。

南北に長いイタリアの国土は、その土地ならでは他では出来ない伝統的な食材が大切の守
られている。複数人種が混ざり、気候も異なるおかげでその幅は大きい。最近では土地の
食材を守ろうという事で政府が産地を明確化してブランド性を高めるDOC(原産地呼称規制)
が進んでいる。が、それに反対する人も多い。希少食材は、伝統的に縁故や闇での取り引き
が行われていてそれが白日の元晒される事に対してロマンスが失われるという美学を持って
いる人が多いらしい。また、規制の枠では従来の製造方法が衛生面で問題があるとして改善
する事は、本来の味が損なわれると思う生産者が多くいる。曰く「これを食べて私は育った。
だいたいその先祖が元気でいたから私がいる」という訳である。
まさに、マンマや婆さんから伝わる味を、守っている俺達を親不孝者にしないでくれと、言わん
ばかりである。そんな頑なに自分の作る食材を語る彼ら職人の人柄は、適度に辛口のウィット
に富んだユーモアが随所に散りばめられている著者の語り口から浮き出て来る。また、訳者は
著者とも面識がある事も幸いしてその著者の人間性がちゃんと伝わる巧妙な日本語訳となって
いる。

紹介される食材は、
@ アルバの白トリフ
A トスカーナのパン
B パスタ
C エクストラ・ヴェルジネのオリーブ油
D ナポリのピッツァ
E パルミジャーノ・レッジャーノのチーズ
F ワイン
G クラテッロ
H リゾット
I フィレンツェ風ビフテキ
J 伝統的バルサーミコ酢
K エスプレッソ・コーヒー

かの地もそうであるように日本も伝統的な食材が失われつつある。
日本では、幸か不幸か伝統的な食材にはDOCのような規制が行われていない。それゆえに
紛い物が闊歩している。ではDOCが浸透しつつあるイタリアはどうか?
それでも紛い物は町に溢れ、またDOCを良しとしない、自信と伝統と保守性と頑固を人生の
最上の哲学と信じて疑わないイタリア人の官僚当局との攻ぎ合いが、今日も続いている。










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空の写真 今月の本(2003)
面白かった本などを紹介します。
2003年に読んだ本の中からの紹介です。