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NO,002 |
■ 舌づくし
著者:徳岡 孝夫
出版:株式会社 文芸春秋
最近、ちょっと重い赤ワインに嵌ってましてね。品種で言ったらメルローあたり
フルボディの老錬た味とコク、若い頃のようにただ単に酔うだけでなくて、香り
と舌触りをじっくりと堪能したい。華やかさを残しつつ、木樽熟成により様々な
木の実や果実を連想させる香りが注入されたそんな赤ワインが好みになってきた。
これは、日本酒でも言える事で、自宅で飲み続けてもあまり出費が嵩まない程度
1万円で3本は買えてお釣りが帰ってくる程度の純米酒、冴えよりも重厚な余韻
を求めて選んでいるようでもある。
何故、こんな前振りをしたかと言うと、この本を読んでいて頭をよぎったのが、
こんな事にだったからである。
著者は戦前生まれ、新聞社で長年記者をされていた。長年の新聞記者生活で培っ
た無駄を省き正確で安定した表現、重厚感はあるものの、嫌な後味が無い。長年
生業とされた熟練の技であろう。
こんな本を読むと、ついつい、程度の良いフルボディの赤ワインか香りや複雑な
味が口中に残る出来の良い純米酒を飲みたくなって来るのである。
忘れえぬ過去の事、同時に食した食べ物と一緒に連鎖して著者の心に強く残った
エピソード 編綴られている。記憶を呼び起こす引き金は人間の五感に起因する
事大である。音楽しかり、風景しかり・・
調理の音、味覚、香り、食感、目でも楽しめる皿に盛られた料理は、五感全てに
訴える引き金を持っている。
そんな事を感じつつ、ならば落ち着いた上質の酒を飲みたいとなった次第である。
ちなみに、肝心の本の中身だが「浅虫のビラビラ」という小編がある。
喜び・絶望・落胆・驚き・尊敬という感情の変化がいかに短時間に人の心を過る
かが、見事に著されている。これはいいお話である。
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