NO,006

日本の牛乳はなぜまずいのか

2月

著者:平澤 正夫
出版:株式会社 草思社

タイトルからして日本の食の危険性を警鐘している本では?と感じた貴方、この本ちょっと違う。
実はUKIもそう思って手に取り、頁を捲るうちに面白い展開だと感じて一気に読んでしまった。

藤江才介という方がいた。
1929年6月、デンマークを目指して横浜港から船でヨーロッパに向かう。戦前の事である。
今のように成田から飛行機でひとっ飛びとはいかない。若干19歳の彼が旅立つ場面からこの本
は始まる。
富樫みねという方がいた。
1930年、酪農農民として北海道に移住した彼女を夫を中心とした酪農農民による乳業事業が
スタートする。
日本の乳業事業はチーズ作りから始まる。また当初は生産者による共同事業だった。
そんな日本の乳業が企業化され、練乳生産でブレークして今の日本の牛乳となる。
人文学的立場から人を軸とした事業の成り立ちと、曲がり角に来た日本の産業の有り方を説いて
いる本書は、最近人気の国営放送局が流すドキュメントシリーズにも繋がる同様の手法として、
大変興味深い。この手の本がもっと沢山出てきて欲しいものである。

ところで、この本を読んで始めて知ったのだが、日本の牛乳は世界の常識である本来の牛乳とは
似て非なるものらしい。それは、牛乳の質の悪さとそれを補う超高温減菌処理(J−UHT)に
ある。
牛乳の安全加工処理方法はいくつかある事をこの本は教えてくれる。
UHT:数秒間120度〜150度に熱して減菌処理する方法
LTLT:30分63度に熱して減菌処理する方法
HTST:15秒72度に熱して減菌処理する方法

厚生省が定めた「乳等省令」によれば、原料乳1CC内に細菌が400万個以内であれば良いと
されている。細菌の中には病原菌もあるが、乳酸菌などの体に良い菌もいる。原料乳の細菌数の
数値が多いのは、それだけ病原菌の比率が多いものと考えられる。仮に1CC400万個の細菌
が存在する原料乳を使って上記の処理を行った場合、流通に乗って消費されるまでの間、品質が
問題にならない処理方法はUHTしか無い。
LTSTやHTSTではそのような原料乳を使用した場合、まだ細菌が多く残っており変質して
しまう可能性がある。その為には、原料乳の細菌数を減らす必要がある。自然に近い状態では、
細菌のバランスが安定していて体に害は少ないが、必要以上に減菌した後、保管方法が悪かった
りその期間が長くなる事で腐敗菌が発生する可能性も高いからである。

では、J−UHTとは何か?
世界常識のUHTとは、上記の方法を余熱無しの直接蒸気を注入して過熱し、その後余熱で水分
を飛ばして滅菌処理したパックに入れて保存するLL牛乳を指す。ところが、日本のUHTとは
余熱処理した上で間接的に加熱して滅菌処理しないパックに入れて保存する牛乳を指す。ゆえに
J−UHTと言う。つまりLTLTやHTSTなどの低温殺菌牛乳以外の牛乳は、世界には存在
しない日本独自の牛乳といえる。
なぜこのような事になったか。一度でも水分等の添加物を加えたものを牛乳とは認めない省令と、
品質の悪い原料乳を使って生産コストを下げる最も有効な方法が、J−UHTだからである。
ちなみに間接加熱を行うとコゲ臭さが牛乳に着いてしまう。
本来の牛乳の味を知る外国人は、あまり日本の牛乳を飲まないそうです。

また、UHTではナチョラルチーズは作れない。本来の乳酸菌も減菌されてしまうから。日本人
は牛乳を飲む習慣がまだ歴史が浅く消化酵素が無いので、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロすると信
じていたUKIは、この本を読んでどうやら原因はそれだけでは無いぞと思うようになりました。
ちなみに、低脂肪乳は牛乳とは呼ばない。これは加工乳というさらに別物だそうです。

本来の牛乳を飲む機会の少ない日本は、その伝統の浅さからそうなってしまうのかも知れない。
が、お隣の韓国もその伝統は浅かったのだが、韓国の牛乳は世界常識の牛乳である。
なんでも捏ね繰り回す日本の技術は、時としてその食自体も日本独自の奇形児に変えてしまう。
何故こんな事になったのか?本書は日本の乳業事業の始まりから現在に至るまで、人を軸にした
人文という立場で紐解き、日本の食の有り方を説いている。

蛇足だが、加工乳の食中毒問題が発生したのが2000年7月本書は1997年上梓されている。
「ファストフードと狂牛病」という本もアメリカでBSEが発覚する直前、翻訳本が日本で出版
されている。互いに出版は草思社である。この会社、昔から話題を引っ張る会社である。









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空の写真 今月の本(2004)
面白かった本などを紹介します。
2004年に読んだ本の中からの紹介です。