天皇家と卑弥呼の系図

NO,011

■ 天皇家と卑弥呼の系図

4月

著者:澤田 洋太郎
出版:株式会社 新泉社

自分の住んでいる地域にかつてどのような生活の営みがあったのか、また古の人は
どんな生活をしていたのか、時々ぼんやりと考えて見る事がある。
その時の風景や、人々の服装や表情など、どんなだったのだろうと。
歴史に思いを馳せるという事は、そんなところから始まるのではないだろうか?

遺構や出土物から想定出来る歴史というものもあるが、そこには個人の詳細な行動
を特定する事が出来ない。歴史と人を結びつけて考えていく場合、残された文献や
神話に頼わざるを得ない。日本の場合で言うと西暦300年前後、初めてその名が
登場するのは、卑弥呼である。

人の系譜を文献に頼りながら、卑弥呼から天皇に至るまでを綿密に考察したのが、
本書である。
著者は、歴史家では無い。教鞭を取りながら先輩でもある推理作家 高木 彬光 氏
に協力し、そこから生まれたのが氏の「古代天皇の秘密」という本である。
著者はその時、自分で調べた隠しネタをいくつか大切にしまっておいた。
次の機会がある時までそっとして置いたのである。その後も研究を重ねた結果本書
が出来上がったのである。ちょっとお茶目な著者でもある。

歴史学者ではない作家の書く歴史書というのは、なかなか認知されにくい。
縄張り意識、アカデミックでは無いという事、さらに玉石混合という事もある。
読み手の判断に委ねられる部分が多い歴史書であると言える。
そのかわり、規制の枠に捉われない推理や資料が出てくる事もある。時にはそれが
新発見に繋がる事もある。特に歴史上の人物の行動心理などは、結局本人じゃない
限り誰にもわからないのだから人の歴史は面白いんである。

著者は、大胆にも現在定説になりつつある「邪馬台国近畿論」について真っ向から
反論し九州説を唱えている。これは面白い。UKIもこれには同感である。
また現在の天皇に繋がる系譜として、元々は中国渤海から進出した一族が朝鮮半島
に留まり、いくつかの民族が争っていた同地でさらに何世代か経過し、当時南朝鮮
から九州・北陸までの同一言語圏だったいわゆる「倭」に進出し、北九州で「耶麻
台国」が生まれ、さらに同族が治める近畿圏に進出して天皇制の黎明期を迎えたと
する説は、大変興味深い。さらに同族間の争いで同族による王朝が何回か替わり、
現在に至るという仮説を丹念に文献に当たり、考察している。

その考察のひとつとして九州の限られた地域の地名が、関西から中部にかけて点在
する。これは点在する地名が九州に集結すると考えるより、九州から派生した地名
と考えるのが普通であろう。

自らの執念で、リタイア後の人生を掛けてここまで丹念に調べ上げているのには、
脱帽である。
生業では無い、ライフワークという灯りを手にした人は強いね。
















前のお話へ 次のお話へ


空の写真 今月の本(2005)
面白かった本などを紹介します。
2005年に読んだ本の中からの紹介です。