NO,019

■ 人類のいちばん美しい物語

7月

著者:アンドレ ランガネー
   ジャン クロット
   ジャン ギレーヌ
   ドミニク シモネ
訳者:木村 恵一
出版:筑摩書房

また、タイトルで本を選んでしまいました。結果、今回もアタリでありました。

先史ヨーロッパの本というのはなかなかお目にかかれない。日本のようにあちこちをゴルフ
場やらリゾートやらでやたら土地をひっくり返しその結果、遺跡にぶち当たるような機会が
あまり無いのか、ヨーロッパで遺跡発見とかはあまり聞いた事が無い。
または氷河期、アルプス以北は氷河で表土をごっそりと削り取られ、長い間、不毛の地とな
ったヨーロッパは、土器時代の無い歴史の分断された地なのかもしれない。
石器を使った時代やアイスマンの頃の話は聞くが、歴史の本となるとローマ時代からのヨー
ロッパとなる。それ以前のヨーロッパはどうなっていたんだろうと常日頃から気になってい
たのだが、人類誕生からのヨーロッパの歴史を教えてくれるのが、この本である。

この本を読んでいて日本の歴史本には有り得ない事だと感じた部分がある。
それは、当時の人間が何故?何の目的で?として視点で、壁画やオブジェを作ったかを検証
する方法である。
ヨーロッパの考察パターンとして、宗教学的に見た象徴としての作品と考える見方。
もうひとつは心理学的に見た内なる欲望としての作品と考える見方があるようだ。
その結果どうなるかというと、洞窟の入り口に縦線が描かれていたとする。
それを見た神父は狩の槍と言う。心理学者は、豊潤を意味する女性性器に似た洞窟には男性
性器だと言う。日本の場合はどうか?割合後者の答えに議論無く落ち着くケースが多いので
はないかと思う。
では、かの地の実証方法はどうだろうか?
壁画やオブジェであれば、第三の考察パターンとして作成者の意見を取り入れるんだそうで
ある。具体的には画家や彫刻家といったアーティストである。

面白いエピソードがある。
ある洞窟で粘土で出来たソーセージ状の塊がみっつ出た。
これは、洞窟で成人式の儀式をしたであろう時の記念に置いた男性性器だという説が最も有
力だった。
ところがこれを見た彫刻家は、粘土でオブジェを作る時かならず粘土を握って可塑性を調べ
る。そのサンプルだよ。と思わず発したらしい。
日本の歴史学界ではこんな時、必ずこうなるんだろうなぁ。歴史心理学の本には儀式の象徴
としてとしか書かれていない。彫塑のサンプルなんて文献には書いていない。

ところで、フランスの歴史学者がインタビュー形式で語るこの本だが、同地でベストセラー
となった「世界でいちばん美しい物語」という本の続編という位置付けらしい。
実はこの「世界でいちばん美しい物語」まだ読んでいません。
凄いご大層な題名の本である。一度読んでみたい。

















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空の写真 今月の本(2005)
面白かった本などを紹介します。
2005年に読んだ本の中からの紹介です。