田園のイタリアへ

NO,020

■ 田園のイタリアへ

8月

著者:篠 利幸
出版:NTT出版 株式会社

写真の綺麗な本である。
文章も簡潔で短い中にも必要最小限の情報が、盛り込まれている。

イタリアは、1960年代に冷害により農業が一旦衰退する。
その後、輸入食材に追われてさらに農業はダメージを受ける。
1985年景観と環境保全を行うには農家の協力が不可欠だという意見を基に、環境保全
を行うひとつの方法として、アグリツーリズムが始まった。
農業収入の他に古い農家を保存する為に、農家が宿泊施設の運営を認め国が支援する施策
を実行する。その宿とは基本的に自炊とし、料理を出す場合も、自家栽培や地域の食材を
使用するなどの厳しい制約を持たせている。今有るものの景観と環境を保全する事に大い
に役立っている。
さらには、豊かな自然の中で滞在型のバカンスを過ごす海外からの旅行客からも人気を得
ているらしい。そんな、イタリアのアグリツーリズムを伝えるのが、本書である。

紹介されているのは、イタリア全土40ケ所の宿。
みな、歴史ある重厚な農家ばかりである。また、イタリア人のさりげないお洒落にも感心
させられる。食にしても、日々の生活にしても、イタリア人は豊かな人生を過ごしている
んだなぁ。と感じてしまう。

本書の中で、興味深い部分がある。
今流行の「スローフード運動」について、イタリアでは中心となっているのは味の分かる
一般市民、例えば会社員や学校の先生などが自分達が楽しみたい、または次の世代に伝え
たいという気持ちで進めている点である。決してレストランや食品会社などがスポンサー
として主体となって進めている訳では無いという点である。商業主義では無い、生き方を
母体としたその運動は、良い意味でも悪い意味でも歴史に晒された、ヨーロッパの生き方
に由来している。
著者は、流行に流されやすい日本人がこの「スローフード運動」を、ひと時の流行り物で
終わらせて欲しくないと訴えている。

最近では、ファストフードの店頭でも、我々は「スローフード運動」を応援しますという
まるでジョークのようなパンフレットが置かれている光景を見る事が出来る。
売れるキーワードに「スローフード運動」が利用される事には、一抹の危惧を感じる。
日本でも、隠れた名宿ともいえる民宿はいくつかあるが、そんな農家を主体とした名宿が
増え、何もしないのんびりとした休暇をより多くに人が享受出来る時代となって欲しい。

何は兎に角、写真を眺めているだけでも心豊かになる本である。

















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空の写真 今月の本(2005)
面白かった本などを紹介します。
2005年に読んだ本の中からの紹介です。