NO,028

■ ソーセージ物語

12月

著者 増田 和彦
出版 ブレーン出版 株式会社

日頃食べなれているハム・ソーセージ、誰が何時作り始め、日本に広めていったのか?
本書は、それを広めた大木市蔵という人の一生を軸に、日本のハム・ソーセージ産業の
現代に至る歴史を綴っている。

明治初期、西洋の文明は横浜から広まる。
千葉の農家の長男に生まれ、文明開化の洗礼を受け、アメリカに渡りたいと考えた市蔵
青年、横浜中華街で精肉業を営む親戚のお店で働く。あわよくばここから船に乗り海外
脱出を企てようという魂胆である。が、なかなか機会は訪れない。

急速に産業が発展する横浜の地で働く市蔵青年、農家の白米も食べられない大変さに比
べ、都会では急速に産業が発展し格差が広がっていく。農家の生活向上には何が必要か?
西洋化が進む日本では、これからさらに肉食が進むであろう。その需要を受けて、農家
が畜産を行いそれを高く仕入れ、付加価値のあるハム・ソーセージをより安く供給する
事で産業は発展し、農家も潤う。
そんな思いを抱いて、当時帰国の船に乗りそびれ、外国人相手に、ハム・ソーセージを
作るドイツ人マーテン・ヘルツ氏に弟子入りをする。

そこそこ仕事を覚えた頃、関東大地震が起こる。この事がショックで神戸に移り住む事
となった師からハム・ソーセージの奥儀を伝授された市蔵青年、共同出資の「サシズ屋
商店」を引き継ぎ、「横浜大木ハム店」を開業する。
「サシズ」とはソーセージの発音に最も近い日本語表示。「掘った芋いじるな」と同じ。

さて、これからいよいよ日本人による日本のハム・ソーセージ産業が始まるのであるが、
農家の辛さを身に沁みて知っている市蔵青年、ハム・ソーセージ産業を発展させる事が
第一義であり、その為には産業を発展させる為の人材育成を行い、独立させていく。
自社はそこそこ儲かれば良い。同業を増やす事に専念する。
ここから今のハム・ソーセージ産業は発展する。多くの同業者は大木市蔵を師と仰ぎ、
配出された弟子でもある。

産業が発展する時、自己の利益のみ考えるのではなく、社会貢献を行ういわば礎となる
祖というものが存在する。アメリカに渡ろうと思い挫折した青年と帰り損なった外国人
の偶然なる出会いから日本のハム・ソーセージは生まれたのである。

ところで、こんな歴史を紐解いた著者は、国文学を専門とする作家である。
何故、著者が専門外の本を上梓したのか?
あとがきでも書いているが、著者の叔父が大木市蔵の経営する会社に勤めていた弟子で
あり、幼い頃から本物のハム・ソーセージを食べていて幼な心になんて美味しい食べ物
があるんだろうと思っていた事、長じてハム・ソーセージを広めた大木市蔵という人の
足跡を誰かが伝えないと忘れ去られてしまうという思い、作家である自分の出来る事、
世の中、奇遇な運命というものがあると感じてしまう。

なお、当時の本物のハム・ソーセージは今の日本のハム・ソーセージとは異なったもの
だそうです。しかし、ごく一部では当時を偲ぶ製法を忠実に再現した製品も作っている
との事、コストは高く採算は難しいが大木市蔵の良心を受け継いだものは、今でも各社
守っているそうです。宣伝する事無く世間では知られていない。どんなものなんだろう
一度食べてみたいね。


















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空の写真 今月の本(2005)
面白かった本などを紹介します。
2005年に読んだ本の中からの紹介です。