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NO,007 |
■ 日本の不思議な宿
3月
著者:巖谷 國士
出版:株式会社 平凡社
今から30年以上も前、サイクリング愛好者の為の非常に薄い月刊誌があった。
ミラーコートされた表紙、寄稿を主とした自転車周辺のエッセイが多く趣きのある
独特の風情を持った月刊誌だった。
サイクリング発祥の地、イングランドスタイルを継承する渋めで伝統的な品格有る
世界が拡がっていた。アームチェアーフッシャーマンならぬ、夢想自転車行を楽しん
だものである。
当時の記憶なので名前はあやふやだが、寄稿者の中で良く登場した綿貫氏だった
か(違うお名前だったかもしれないが・・・・)その方のエッセイが印象深く残っている。
自転車を利用した旅行文が主だが、歴史有る地域を巡り古い宿の由来や古仏・
神社など、古文書を参照しながらかなり深く民俗学の世界を展開していた。
写真も当時流行りの白黒増感写真で古郷の味を伝えている。
今から思うと、エッセイと民俗学と写真に興味を持ったのは、この方のおかげかも
しれない。
何でこんな事を思い出したかというと、この本を読んでいたら、昔の月刊誌をもう
一度読み返してみたくなったからである。
上質のエッセイである。
いにしえの日本旅館を旅する。風や香りや遠くの喧騒、空気が伝わってくる。
戦争・バブルと大きな流れが日本を吹き抜け、それに耐えた宿は、ひっそりと息を
殺し、それでも一部のお馴染客の為に営々と時を摘むんでいる。
著者の古い記憶を辿りながら、再来や縁のある宿24ケ所を巡る。
紹介されている宿は、
環翠楼・山光荘・船津屋・宝塚ホテル・三木屋・松栄館・奈良ホテル・松雲閣・
なかむらや・千葉旅館・プチホテルコリンシアン・第一滝本館・越中屋・千明・
仁泉亭・越後屋・霞山荘・和田屋・民宿石垣島・重豊荘・和多屋旅館・皆美館・
六口島花壇・金沢旅館・帝国ホテル
晩秋か初冬、革の旅行鞄を持って電車とバスを乗り継いで、数日間滞在したくなる
ような宿ばかりである。
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