NO,009

■ ローマ人が歩いた地中海

4月

著者:トニー ペロテット
訳者:仁木 めぐみ
出版:株式会社 光文社

どこの国でも物見遊山の旅行好きはいる。
好奇心にかられ、珍しい風景、歴史ある神殿や建物、人々の暮らし、その土地の
料理を求めて観光旅行に向かう。その歴史はキリストの生きた時代まで遡る。
西暦元年、繁栄したローマ帝国ではその領土、ギリシャ・トルコ・エジプトを巡る
観光旅行がブームとなった。

ニューヨークの図書館で当時の旅行記を目にした著者は、ローマ人と同じ方法で、
ギリシャ・トルコ・エジプトを巡る観光旅行に旅立とうと決心する。
当時と同じ方法とは、当時無かった飛行機には乗らず陸路は汽車かバス、または
レンタカーに乗り、水上は船で旅行をする事となる。

ナポリでは、世話好きのマンマが経営するホテルで息子のごとく箸の上げ下ろし
まで干渉され、ギリシャでは純朴な農民に煙たがられ、トルコでは何も無いトロイ
の遺跡跡?の観光施設で幻滅し、アレキサンドリアでは海中に沈む都市に潜りたく
なり、ギザではトトメス3世のミイラに素手で触り、王家の谷では石室に横たわり
スイス人のカップルを驚かす。
現代の旅とローマ人の旅行記をオーバーラップさせながらいつの時代でも物見遊山
の旅行者の行動と気持ちはたいして変わらないと感じさせてくれる。

旅行作家である著者は、今回の長期旅行(著者はグランドツアーという表現をする)
は、人生最後の長期旅行と位置づけている。それが何かはこの本を読むとわかるが
男性は誰でも一度は訪れる可能性の有るこの問題に答えを出すべく、この長期旅行
を著者は続ける。その意味では本当にグランドツアーと言える。

ところで、英語圏の作家というのは、文章の中でさり気なくジョークを散りばめる。
この本の中で思わず笑い出したジョークのいくつか。
「エディターの語源はローマ時代に遡る。闘剣場で傷を負った戦士を病院に送るか
その場で殺すかそのジャッジをする人間をエディターと呼んだのがその語源である。
まるで、今のマンハッタンの出版社の編集者そのものである。」
「ホテルのオーバーブッキングは何も今始まった事では無い。イエス・キリストが
生まれたベツレヘムの夜もそうだった。」
「ピラミッドを建設する労働者の食事メニューの記録が残っている。シャロット・
玉葱・大蒜、まるで付け合せのようなメニューである。」
「近代の旅行者の最も危険な行為、それは旅先から自宅の留守電を聞く事である。
まるで、ロシアンルーレットのようなものだ。」
















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空の写真 今月の本(2005)
面白かった本などを紹介します。
2005年に読んだ本の中からの紹介です。