NO,022

■ 農と出会う自然体験

10月

著者:稲垣 栄洋
出版:株式会社 地人書館

「アクティビティ」という言葉がある。
初めて聞いた言葉である。その中身は「エコツアー」より能動的であり、自然環境や農業、
食糧に対するゲームによる、自分自身の理解と認識の深さを確認する作業である。一時期
流行った「レクロエデュケーション」でもある。
地域と自然と人と作物を理解する為の行動、「食育」をも含めたこの「アクティビティ」を
推奨・実践する集団「のらり会」を主宰するのが本書の著者である。

大学を出て中央の農林省に勤務するも、地元の静岡に戻り、農業試験場に勤める著者。
ここを拠点として、「のらり会」を結成する。
農家と消費者の距離をいかに埋めるか、同じ次元で物事を考える事が今までなさ過ぎた現状
を元に活動を開始する。その活動はかなりユニークである。

農水省に勤務する前に、海外青年協力隊で海外に行く。
UKIの知り合いにも何人かいますが、皆、野外学習を学ぶようである。
著者の「アクティビティ」もそこでの手法を取り入れたのではないかと思うようなメニュー
がいくつかある。人に何かを感じさせる。団体行動ではありながら、個々人に対して行動を
起こさせるというその手法は学ぶところが多い。

例えば、
・田圃の生き物カード
予め田圃に生息する生き物の名前カードを配り、いくつ見つけたか?害虫か益虫かを考える。
・泥んこ代掻き
子供に田圃で泥んこ体験をさせる。土に親しむと共に稲を植えたら出来ない事を理解させる。
・タヌキに化けよう
タヌキに化けたスタッフからヒントを貰い、目的地を目指すオリエンテーリングのような物。
・1ヘクタール体感ゲーム
自分で思う1ヘクタールの大きさに各自立ち、実際とどれだけ違いかを体感するゲーム。
・牛乳を聞く
牛乳の利き酒?ゲーム、生乳・高温殺菌乳・低温殺菌乳・低脂肪乳などの飲み比べ。
・故郷思い出マップ
昔の地図を元に近在の方に伺いながら、目的地を目指す。挨拶の仕方や土地の歴史を学ぶ。
・かかしの気持ち
みんなで田圃に片足で立ち、無言で3分間聞く・見る・感じ、互いに発表しあう。
・飢餓体験ゲーム
食品カードを作り、みんなで取合う。必須カロリー以下や輸入カードはお手付きで脱落。

発想がいいねぇ。また、適度に遊びと落ちがあるのも良い。自然とのめり込む構造がある。
人は、自分自身で感じた事は、他人に教えて頂く事よりも数倍強く印象に残る。
自分自身で感じて貰うには?という観点で実施されている各種ゲームは、大変参考になる。
最近流行りの「食育」だが、私達は一所懸命だとか、とても大切な事だとかを声高く言う前
に、本書のような捻りと驚きを与えるような企画を実践したら面白いと思うけどね。

また、本書を読んで特に強く感じたのが、飢餓に対するゲームとその狙いである。
カードを取らねばとあせれば、互いに奪い合いとなる。また、必要以上のカードは取らない。
つまり、食糧を保持する為には人は奪い合い、時には殺害すら起こりうる。また、食べきれ
ない量の食糧は、誰も見向きもしないで棄てられるだけである。
需要に応じ、人殺しも起こるし、また簡単に廃棄もされる。食糧の本質とはこれである。
ここの答えは見事だねぇ!
これを理解してから食糧難や自給率を考えるのと、世間が騒いでいるから何となく考える、
との間には、雲泥の違いがある。ここ大事だねぇ。

あっ、ところで本書の著者は、美しいイラスト野菜本「身近な野菜のなるほど観察記」の著者
でもある。この本も良いよ〜。

















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空の写真 今月の本(2006)
面白かった本などを紹介します。
2006年に読んだ本の中からの紹介です。