NO,026

■ これさえあれば

12月

著者:藤田 千恵子
出版:株式会社 文藝春秋

どえらい本である。
取材に手間と時間とコストが掛かっている。

著者はフード系のフリーライター、趣味と実益(?)を基に日本酒を題材にした記事を長年
書いているらしい。また、日本ならではの醗酵食材と同じ醗酵から生み出される日本酒とを
一緒に味わおうという事で「醗酵リンク」なる会を主宰し、毎年全国の日本酒醸造元・醗酵
食材である醤油・味噌・酢を造っている方々や厨房を預かる料理屋の方々を中心に一般の
方々も含め、一同に会して酒と料理を楽しもうというイベントを続けている。
そんな著者が、日本酒の蔵元を訪ねる事をライフワークにしつつ、その土地その土地で出遭
った美味しい食材を紹介しているのが、この本である。

紹介されているのは、
・香川の醤油
・天の橋立のお酢
・粟国島の塩
・自分で造る味噌
・日本の魚醤
・那須の味噌
・和歌山のポン酢
・紀州の醤油
・枕崎のかつお節
・三河のみりん
・三重の胡麻油

いずれも比較的入手し易く、お値段も程ほどの食材である。

各地の食材を取り上げている中で、気が付いた事がある。著者の姿勢である。
文章は、大変柔らかいが取材姿勢がそこはかと伝わってくる。著者の取材姿勢は基本的には
インタビューである。人を介し、紹介を通じてじっくりとお話を伺っているんだろうなぁと
想像する。多くの言葉の中からキーとなる言葉を見つけ出し、そこをさらにインタビューし
深く聞き出す。文章にまとめる段になったら、多くの言葉の中からそのエッセンスを抜出し
て、読者にその言葉と文章と行間からさらにその奥にあるものを想像させる。
最近読む文章が、ルポルタージュ的なものが多く取材者の雑記や感想で終わってしまうのを
物足りなく感じていたのだが、本書は、聞き手に回った最近少なくなった取材文である。
さらに感じたのは、文体のリズムである。
著者と同年代だからなのかもしれないが、間合いや言葉の切れ方が心地よい。行間を読むと
いうのは空気を読むのと同様一種のリズム感かもしれない。

レストランで美味しいものを食べるのも良いが、きちんとした食材を入手して自分で料理を
作れば多少高く付いても同じ金額でレストランに3回は足を運べてしまう。
「自分のお気に入り」食材を持っている事も人生にとって必要な事だとつくづく思う。
















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空の写真 今月の本(2006)
面白かった本などを紹介します。
2006年に読んだ本の中からの紹介です。