NO,025

■ そばの細道

12月

著者:宮下 武久
出版:川辺書林

会社が引越しして約1年、未だ昼食に合う近所の手頃な蕎麦屋を見つけあぐねている。
好みに合った寿司屋と豆腐屋と蕎麦屋は、歩いていける距離にはなかなか見つからないもの
である。
つまり、ここのところ好みに合った蕎麦を食べていないんである。
年に一回行けるかどうかという桧枝岐の蕎麦の蕎麦も、ここ2年程、忙しかったり宿の予約
が取れなかったりで食べる事が出来ない。
その欲求が募ったのも一因して、来年より「会津高原蕎麦トラスト」なるものを立上げよう
と目論んでいる。
と、いう訳でその準備と予備知識の取得も兼ね、改めて蕎麦関係の本を読んでみる事とした。

この本、かつて5年程前に目を通した本である。
このコラム「今月の本」で以前紹介した「恐るべきさぬきうどん」を知るきっかけとなった
のが、本書である。

当時もマイ蕎麦ブームだったような気がする。
が、この本を読んで「恐るべきさぬきうどん」を読み、一時期はさぬきうどんに嵌った事も
ある当時は、私にとって蕎麦の本であって蕎麦の本ではない本でもあった。

で、今回改めて読み返してみた。まず、改めてこの本のタイトルが気に入った。
例えばアイザック ウォルトン著「The Complete Angler」とか、1970年代に出版された
「The Last Whole Earth Catalog」とかその手のタイトルに類似したタイトルである。
こんなタイトルだとまず凄いなぁ〜なんて思っちゃうよね。全てがここにあるなんてね。
この本も英訳すればさしずめ「Deep Trail in SOBA」なんてタイトルになるんでしょうか?
探求しているぞ!!なんて思っちゃうよね。

と、長い前振りではあったが、著者は信州それも南信出身の何処でも誰でも同じだと思うが
物心ついた時から蕎麦のある日常で、20歳を超えてから蕎麦の魅力に改めて気が付いた方
である。
ローカル出版社の仕事をされて独立されたようであるが、ご当地ガイド誌を制作する為に、
各地の蕎麦屋を取材され、信州蕎麦の新たな発見をされた流れは「恐るべきさぬきうどん」
とも動機は一致する。

で、本の内容はというと、
・信州そばとは一体何か?
・様々な変わった信州そばの店の紹介
・蕎麦の王道を行く方々の紹介
・著者の地元南信の食
・地元蕎麦屋のこぼれ話
と言ったところである。

信州蕎麦について著者は面白い指摘をしている。
もともと信州蕎麦は素朴な郷土食であり、江戸で栄えた粋な蕎麦では無い事。
ある時、美味しい蕎麦(そば切りではない食物)が信州で育成されている事が紹介され、
そこで打ったそば切りを食べてみたいと県外から人が押し寄せて来た事。
美味しい蕎麦粉を使用している店は、一部に限られていて信州蕎麦全体が全て美味しいそば
切りとは限らない事。
減反政策とブームに乗ってあまり品質の良くない蕎麦が栽培され、信州産蕎麦全体の質を、
低下させている事。
さらに、そんな信州の環境に憧れて脱サラした蕎麦屋が結構頑張っている事。
ブームに流されず、探究心を持って真の「信州そば」を目指して欲しい。

これを読んで思った事は、
・信州蕎麦は老舗が必ずしも美味しいとは限らない。
・美味しい蕎麦屋の比率が美味しくない蕎麦屋の比率に比べ極端に少ない。
正直言って信州蕎麦で、とてつもなく美味いと感じる蕎麦屋にはまだ巡り会っていない。
やっぱりその比率が少ないからではと思う次第である。
















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空の写真 今月の本(2006)
面白かった本などを紹介します。
2006年に読んだ本の中からの紹介です。