NO,029

■ 食いしん坊の食文化論

12月

著者:森實 考郎
出版:河出書房新社

著者は、我が父とほぼ同じ頃に生まれた戦中戦後の食糧難に成長期を迎えた世代である。
この世代の方の多くは食べ盛りの頃、充分に食べられなかった思いが強いのか、食に対する
執着心はとても強い方々が多い。歳を取っても食欲旺盛、美味いものを求める心は大変強い。
そのおかげで、幼い頃から美味しいものに出会う事が多かったUKIは、その恩恵を多いに
受けて育つ。この部分では親には大変感謝している。

で、著者はこの世代の多くの方と同じ思いを持ち、それを我が人生の大きな使命として考え
たのか、東京大学を卒業し、農林省に勤め、その後は外郭団体に在籍して食糧関連の世界を
長きに渡って歩む事となる。その間知りえた地元下町の味、フランス、イタリア、スペイン
のレストラン、西洋食文化について書かれたのが本書である。

その本の語り口は、その著者の人柄を著す。
最近何となく分かりかけてきたUKIではあるが、この方単なるお役人では無さそうである。
まず、行く店がなかなかである。
外郭団体の理事長にと請われ承諾した大きな理由として、好きな食事処と風情が残っている
下町に勤め先があった事だったと述べているあたり、普通のお役人ではないね。

一般にはあまり知られてはいないが、昔からの味を守り、知る人は知る下町の老舗が何軒か
登場する。そのうちの数軒はUKIも知っているが、全て、人からの紹介で知りえたお店で
あり、普段はあまり話題にも登らないいわゆる名の知れていないお店である。
尤も、あえて内緒にしている節もあるのだが・・・・
そんな下町の老舗や、本格フランス料理店、イタリア料理店、さらにはパリやミラノの老舗
が紹介されている。UKIにとっては、行った事も食べた事もない海外のレストタンだが、
多分下町のお店同様、知っている人は知っている名店なのでしょう。

本書の後半、著者の業績に触れている部分で興味深い内容があった。
先物取引に米を盛りこもうとし、それが採択直前に中止となった挫折の経緯である。
自給率低下から脱却する為のひとつの方法として、市場経済における農業の資本投下型経営
を目指した手法である。が、全ての調整が終了し、まさに先物取引品に米が扱われる寸前に
当時の農水大臣から中止の指令が起こる。
ある面から見ると日本の米は、聖域であり、未だにタブーとされる領域なのかもしれない。
しかし、そこに触れないが為に、時間の経過に伴った市場や消費者ニーズの変化に付いては
いけなくなり、それが産業としての発展性や自給率の低下に繋がっている事も認識しなくて
はならない。
著者の提案や手法が全てうまく進むかどうかは、結果を見なくてはならないが、少なくとも
前向きであり、ポジティブな行動である。
無難に生きれば波風立たずに良い場合もあるが、あえて使命として著者が行動するその背景
には、戦後の食糧難というトラウマがあるように思えてならない。

















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