NO,009

■ 危ない食卓

4月

著者:フェリシティ・ローレンス
訳者:矢野 真千子
出版:河出書房新社

本当に怖い本である。

イギリスの農産物生産現場がどうなっているのか?
フリージャーナリストとして、アフガニスタンの難民キャンプでの生活から戻った著者が、
豊かな食糧状況のイギリスで見た歪んだ食糧事情を深く探っている。
その取材方法は、一風変わっている。
おとり捜査まがいの方法である。著者はパートタイマーとして生産現場に潜入し、実体を
肌で感じ、目の当たりにした真実を丹念に紡いでいくんである。

そんな、著者の行動から見えてきたイギリスの食品事情とは?
コストを下げる事が最優先する余り、水分による増量と多くの混ぜ物をし整形された鶏肉
加工工場、人件費コストを下げる為に、海外からの不法労働者による生産を行う農場や形
に拘る消費者の為に野菜の分別作業に追われ、出荷出来ない野菜を抱える農家、大量生産
によるコストの低減可能な大規模製パンメーカーに押される地元ベーカリーなどなど・・

BSE発祥の国、イギリスの食糧加工に対する検査がいかにおおまかなのか本書を読むと
わかるが、はたしてこの問題は日本でも大丈夫なんだろうか?
本書からの例をひとつ。
加工用の鶏肉、例えば整形ナゲットや下味が付いた冷凍製品などは、日本でもその原料や
添加物に対しての産地や内容表示を行う必要がない。鳥インフルエンザの影響でそのまま
では輸入出来ないコストの下がった鳥肉を練物にして輸入し、鶏皮や骨を同様に粉砕して
添加してさらに水を加えて整形する。味のしっかりした鶏の加工品が出来る。
カロリーは鶏皮が、含まれているので脂肪分が増えて増加するはずだが、添加した水分で
増量されている為にグラムあたりのカロリーは増加しない。尤も栄養素バランスは本来の鶏肉
とはかけ離れたものとなるが、その表示義務は無い。
さらに、添加されている食材は鶏肉だけではなくBSE問題で禁止されているはずの牛肉の
部位だったりもする。一定量以下の添加物はたんぱく質という表示で済んでしまう。

これはイギリスでの実際あったお話である。
日本では、食糧事情についてのおとり捜査まがいの潜入ルポルタージュによる警鐘した本
は無いが、ここまで丹念に淡々と著されると真実はひとつであるという事がよくわかる。
















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