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■ 富士山が世界遺産になる日

8月

著者:小田 全宏
出版:PHP研究所

世界の優れた景観を残そうと発足した「世界遺産」写真やTVなどで紹介されているのを
よく見かけるが、実は富士山はその「世界遺産」に登録されていない。
知ってたぁ〜。そういえばそうだね〜という事でこの本の背表紙を見た時、感じて思わず
手に取ったのがこの本である。

誰でも馴染みのある日本を代表する風景、富士山。
この富士山は、未だ世界遺産に登録されていない。この富士山を世界遺産に登録出来ない
かと、多くの著名人が集まって「富士を世界遺産にする国民会議」なるものが発足した。
著者は、その団体の理事と運営委員長を兼任する。その著者が自然環境はもとより、文化
面から見た富士山に纏わる様々な事を記したのが、この本である。

・富士山の名前の由来から、祭られている神々、信仰、富士講とは?などの伝説・伝承
・富士山の成り立ち、植物の分布、地下水、などの自然について
・万葉集、古今和歌集、伊勢物語、更級日記の古典から近代文学までに語られる富士山
・北斎の浮世絵を通じて世界に紹介された富士山、横山大観からお風呂アートに至るまで
・富士登山のあれこれ
・世界遺産と富士山

富士山に纏わるあらゆる事がこの本にあるといった感じで、まさに「富士大全」である。

ところで、世界遺産になぜ未だ富士山はならないか?
世界に有名なゴミの山富士山という印象があった為なのだろうか?

世界遺産にという声は、世界遺産設立当初からあった。が、その基準が当初は、自然環境
と固有種保護が目的とされた為、富士山はその対象とならなかった。
つまり、景観だけをとったら同じようなコニーデ型の山は世界には多くあるし、高さも、
世界一ではない。また、特定固有種が生息している訳ではない。
それでも将来に残したいと思う世界遺産になってもいいんじゃないの?
と何故、人は思うのか?
それは、確かに富士山は日本を象徴する風景なのだが、日本人や外国人が富士山に対する
思いは、自然環境という面だけではなさそうだと著者は語っている。

その理由は、信仰や文学、絵画、芸術などの文化面で古くから富士山と向かい合っていた
人々の暮らしにある。
いつも富士山を眺めて暮らしている日本人にとって、一目でわかる目印となる風景である。
さらに、富士山を直接眺める事が出来ない名古屋以西や北陸、日本海側、福島以北の人達
には、その地で見られる富士山に似た山を何々富士と呼んで日々眺めている。

日本人の心の中の原風景としての富士山をではどうしたら世界遺産に登録出来るか?
著者は、自然遺産ではなく文化遺産として登録すべきだと説いている。
当初、世界遺産の制度が出来た際に当然富士山を世界遺産にとの運動のあったが当時は、
自然遺産というカテゴリーしかなかった。
が、1992年に文化遺産というカテゴリーが出来る。その基準のひとつとして、
「自然的要素が強い宗教的・芸術的・文化的な事象に関連する景観」というのがある。
これこそ、富士山にふさわしい理由であろうと著者は綴っている。

本書は、富士山を世界遺産にと活動している著者が、活動していく中で、知りえた富士山
の周辺にある様々な事柄を紹介している。それと同時に、世界遺産とする為の活動自体が
日本人と富士山をより密接にしていく行為だとも言える。
これは考え方によるが、何時までも世界遺産に登録されずその為に登録されるよう運動を
続ける事が、新の世界遺産の継続保護になるのではとも思えてくる。











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2007年に読んだ本の中からの紹介です。