NO,022

■ 江戸への新視点

9月

著者:高階 秀爾 田中 優子 他
出版:株式会社 新書館

江戸学なるものの本は多く出版されている。よく、そのネタが尽きないものだと思うが、
その題材とされる内容は、まだまだ限りないようでもある。
本書は、ジャパンタイムズという外国人向けの英字雑誌に掲載された江戸の生活を伝える
連載コラムの基となる日本語原稿を本にまとめたものである。
英訳されたものは世に出ているが、そのオリジナルである日本語のものは、まだ未発表で
ある。こういうのは、書き下ろしというんだろうかなぁ〜と余計な事を考えてしまった。

テーマに基づいて多くの方が執筆されている。
各々の執筆者は、ノンフィクションの作家や大学教授、元警視総監など専門的な立場から
とっておきのネタをご披露されている。
その内容は、
・江戸の風景の原点でもある富士山
・参勤交代制度を軸とした街道整備や地域活性の実情
・年功序列ではなく能力主義だった役人の登用制度
・手間を掛け付加価値を付けて生産していく労働集約型ではない江戸の農業
・現代よりも離婚率が高くまた書面による契約結婚の色合いの強い婚姻制度
・身近な芸能人でもあり尊敬される憧れの人でもあった芸者
・壮大なマスタープランにより築かれた水の町江戸
・世界でも稀な話芸落語
・地域住民が主体となり治安活動を行っていた江戸の警察
・子供の無銭旅行や旅先で見知らぬ人に委ねた手紙が届く信頼関係に成り立った江戸の旅
・絵巻や黄表紙にそのルーツがある現代の日本の輸出産業でもあるアニメ
・低成長時代にあった安定生産、質の向上による職人の洗練された技の秘密

限られた資源を有効に活用し、継続出来る経済をと考えた時、環境問題も含めて高度経済
産業を主とした経済主義に限界がある事は、多くの人が認識を持っている。
では、これからの全世界的な経済の在り方として、良い意味でも悪い意味でも参考となる
テキストが日本の江戸時代にあるといえる。
ゆえに、再検証しようというのが江戸学の本質であろうと思う。
江戸学は、昔はよかった的な愚痴にも似たものではない。検証し、メリットとデメリット
を判別し、現代に活用できる事は何かを導き出す事が肝要であろう。

本書は、そのようなかつての事例を改めて検証し新たな視点に立って江戸を観察している。
そのようなテキストを日本人以外の方に英語版でのみ上梓するのはもったいないぞぉ〜と
いう思いが本書を日本語で出版したのではなかろうか?











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空の写真 今月の本(2007)
面白かった本などを紹介します。
2007年に読んだ本の中からの紹介です。