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NO,005 |
■ 発酵道
3月
著者:寺田 啓佐
出版:河出書房新社
江戸時代から続く造り酒屋に婿として入った著者が、約30年間を通じて、大企業ではない
地方の小さな造り酒屋の実態と、時代の流れに変化していく造り酒屋の姿を著している。
この本では、日本酒の近代史ともいうべき戦中から戦後の日本酒がいかに衰退していったか
の歴史が非常に分かり易く書かれている。
戦中、米不足から生まれた三倍増の酒、いわゆるアル添。純粋アルコールを添加した事で、
米の味自体がしなくなり、味を足す為に、糖類や人工アミノ酸などの旨味成分を加える事で
ベトベトした日本酒となり、日本酒は悪酔する酒という印象が生まれる。造り酒屋も日本酒
の味を守る事よりも、高度成長社会の中で乗り遅れないよう収益を上げる為に大手酒造会社
の下請けとして桶売りをする。
税収の柱として酒税を考えている政府は、さらにいかにして酒から税金を取るかを考え、何
となくの判断で決まってしまう日本酒等級制度を作る。
一時期、等級で一番下の等級である二級酒が、一番美味いという密かな評判が立つほどこの
制度はいい加減なものだった。
結果、美味しくない日本酒や食事の変化から、酒の嗜好の変化に追いついていけない日本酒
製造メーカーはますます衰退していく。
そんな中、経営者として、単に儲かる儲からないといった事以上に、社会にいかに受け入れら
ていかなければならないか?受け入れられて喜ばれる企業は、自然と業績も伸びていく事と
いう事に気が付いた著者は、自分が婿として入った歴史ある造り酒屋の他には無い良さを
見つける事となる。
料理にあった安全で美味しい日本酒が、もっと増えて欲しいと思うUKIとしては、著者の
行動は応援していきたい。
その土地、国で育まれてきた醗酵食品は、その土地に暮らす人にとって、自分の体を健全に
保つ為の基礎となる食品だと思う。特にお酒は適量であれば毎日口にしても決して飽きない
醗酵食品である。これを育まないでどうする。
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