NO,001

■ 宮本常一を歩く 上・下

1月

著者:毛利 甚八
出版:株式会社 小学館

この間から宮本常一に嵌っています。
民族学は昔から好きで、柳田国男や折口信夫などの名前は知っていたが、宮本常一の名前を
知ったのはごくごく最近である。

一年のうち、200日以上全国の伝承と民具や住まいの状況を調べて廻った宮本常一の偉業
は、学会や出版といった中央での活動による多くの仲間内で認められていく学閥とは違った
活動だった事、また、その活動母体が財閥のパトロンの庇護の下にあり、アカデミックとは
一線を介する別の学問とされていた事にある。
しかし時代が過ぎ、採種された伝承記録や各地に保存された民具などは、今となっては一級
の資料となっている。
そんな宮本常一に若い頃から嵌り、彼の歩いた痕跡を丹念に探ったUKIと同世代の著者に
よる、各地域の現在でも言い伝えられている宮本常一の伝承と漂流の記録である。

地域の伝承を聞く事を第一義とした宮本常一だが、工業化の波に押され地域が段々と廃って
いく過疎化となっていく実体が各地を廻る中から見えてくる。
その現状を何とか打破したいと、次第に地域活性を住民自らが行う必要性を説いて歩くよう
になる。時に政府や政治家を動かし地域活性化法案を成立させる傍ら、住民自らが活性化を
行う為、本来農家の出身である事と伝承を聞く際に篤農家から得た農業情報を伝えていく。
その事が本業の農家をも驚かせ、絶大の信頼を持って地域の方々に浸透して行き、宮本伝説
が生まれてくる。
著者は、そんな伝承を採取する人の伝承を、改めて採取するといったルポを3年間に渡って
続ける。これは、何十年かに一度その地域の今の日本を記録していく事であり、これが将来
さらにその時の地域と日本の伝承を採種する事の積み重ねを行う事でより意義が増してくる。
こんなフィールドワークを繋ぐ学問もあってもいいんじゃないだろうか?

しかし、古のヤマトタケルや西行、最近では水戸黄門やフーテンの寅さんなど漂泊物語に、
日本人は共感とロマンを求める民族であるようだ。
その心は「いつかどこかで私を待っている人がいる」という名言が著しているように思う。
で、誰か、宮本常一を題材にした映画作らないかなぁ?
全国に渡っているのでネタは尽きないし、「フーテンの寅さん」なき後の連続ヒット映画は
狙えると思うが・・・
ちなみに私の心象カラーとしては、世界の大友(このフレーズ好きだねぇ、本人が今のよう
に売れる前、自分のマンガに時々意味も無く登場人物に言わせていたギャグが懐かしい)が
撮った「蟲師」の日本の風景が浮かんでくる。
本当に誰か映画にしない?宮本さんを・・





前のお話へ
次のお話へ


空の写真 今月の本(2009)
面白かった本などを紹介します。
2009年に読んだ本の中からの紹介です。