NO,002

■ スローライフ、スローフード

1月

著者:大谷 ゆみこ
出版:株式会社メタ・ブレーン

スローフードが話題になり、日本に定着し始めた2002年に飲料メーカーの食文化講座で
講演された内容をまとめた本である。講演者は、スローフードの紹介者島村菜津さん・小泉
教授・辻信一氏・大久保洋子氏・石川英輔氏・タイモンスクリーチ氏・村上讓顕氏・河名秀
郎氏など、食の分野で活躍されている方々である。

各々専門の分野から、長い時間培われた地域の食を維持していく事の大切さについて語って
いる。地域に培われた食とは何なのか?歴史に磨かれて切磋され残った郷土食の合理性とは
何か?日本でもまだ僅かに残っているスローフードをどうやって守っていけばいいのか?
その為には、どんな社会的問題意識を持ち続けるべきか?それを行っているイタリアと日本
の意識の違いと食文化に対する重みの違いは何なのか?またスローフード運動の大切な使命
として、その活動を評価する賞があり、その受賞の多くは、自家採種種を保存活用している
農村や種子保存施設である事などスローフード運動の本来の姿が紹介されている。

人類の生き物として生存し続ける大きな要素のひとつである「食」のついて、新しいグルメ
の流行として受け止めがちな「スローフード」だが、本質的には、その大きな要素を永続的
に担えるような行動が「スローフード」だと言える。
収益や経済性を第一と考える中で、不正や偽装が、生存し続ける大きな要素を破壊していく
現状を考えると、当時まだあまりこの事が発覚していなかった中で、この問題を解決すべき
行動を取った「スローフード」運動は、先見の明があったのであろう。
ここで触れられている事は、多岐に渡っているが、「食の安全」の基本的な要素が詰まった
大変便利でコンパクトなテキストである。

当時とあれから何年か過ち、相変わらずの自給率の悪さや食の安全が危ぶまれている今、読
み返してみると改めて感じるものがある。日本のスローフード黎明期の空気がここにある。





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空の写真 今月の本(2009)
面白かった本などを紹介します。
2009年に読んだ本の中からの紹介です。