日本<汽水>紀行

NO,005

■ 日本<汽水>紀行

7月

著者:畠山 重篤
出版:株式会社 文藝春秋

著者は宮城で蛎養殖業を営み、早くから海の生物の育成には、そこに流れ込む川の上流の
環境保全が大切な事を突き止めて「森は海の恋人」というスローガンを掲げて、森林植樹
活動を行っている方である。

森の木々の落ち葉が川に流れ、上流の様々な栄養素が海に流れ込み、その栄養を基に植物
プランクトンが育ち、その植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、それを様々な海
の生き物が食べる事で豊潤な海が拡がっていく。
特に、北海道大学の松永勝彦教授の研究成果からわかった、この川に含まれるフルボ酸鉄
の働きである。
植物の成長に必要な養分の中で、硝酸塩を取り込む際にこれを還元出来る酵素には鉄分の
力を必要としている。が、海中では生物が吸収出来る鉄分は不足しているのだという。
海中の鉄分はかつて、水に溶けた状態だったが、海中の酸素と結合して酸化鉄となり海底
に沈んでしまっている。これは植物の生体膜より大きく体内に取り入れられない。
しかし、フルボ酸鉄は植物の生態膜より小さく吸収する事が出来る。これによりその養分
が運ばれる川と海が出会うところ(汽水)には、多くの生物が育っていく。
その守られている海<汽水>を全国に巡る旅の記録が、本書である。

著者が訪れた汽水域・森林は、
・北上川
・三陸リアス 広田湾
・陸奥湾
・有明海
・四万十川
・屋久島
・日南海岸
・気仙沼湾
・岡谷
・安房
・三番瀬
・宍道湖
・富山湾
・小出
・揚子江(中国)

東京に住んでいると身近に海を感じる事はない。
いつか東京湾から船に乗って伊豆諸島に行った事がある。海の上から東京の夜景を見ると
水面に張りついたような東京の街が拡がっている。
普段あまり気が付いた事はないが、身近なところに海がある。海と川と陸が交あう処、
汽水は多く日本各地に存在している。
陸からの視点ではなく、時には海から陸を眺めてみる事も重要だなぁとつくづく思う。

この本を読んでいると何が正しいか?を探求する心と、真実を見つけた後の揺ぎ無い実践
信念というものは、大切なんだなぁを力をくれる本である。





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2009年に読んだ本の中からの紹介です。