企業の知恵で農業革新に挑む

NO,007

■ 企業の知恵で農業革新に挑む

 9月

著者:山下 一仁
ライター:赤城 稔
出版:株式会社ダイヤモンド社

最近読んだ農業系の本の中では、かなり突っ込んだ事が書かれている本である。
著者は、長年農水省で勤務していたまさに農政真っ只中にいた人である。
現在は外からの立場で、今までの農政を振り返り今後の農業の在り方について、企業
の経営理念を持って勝ち残れる産業として日本の農業がどうあるべきかを説いている。

取材した企業の取組みは、
「やでぃっしゅぼーや」
「ワタミファーム」
「セブンファーム」
「カゴメ」
「パルシステム」
である。
各々、より良い農産物を入手する為には?というところから出発して現在に至っている。
また、企業を経営する立場で今までの農業では出来なかった事を実現している。
が、ここに至るまでには、古い体質の農協や農業政策によってなかなか思うようになら
ない現実があった。
この思うようにならない現実に着眼して、現在の日本の農政の在り方とどんな変化が、
必要かを説いてのが本書である。

著者は、ここまで自給率が低下し新規参入を拒む日本の農政の在り方を「八つの大罪」
といっている。
曰く、
@ 農地政策の失敗
農地改革を行う際に小作権(賃借権)を強化した為、貸し渋りが起こり、かえって土地
の流動化が阻害された。
A 転用規制の甘さ
農地を宅地に転用するには、農業委員会の承認が必要だが、身内である農業委員会は、
第三者機関では無いので、転用承認が甘くなり、結果農地が減少してしまった。
B ゾーニングの不備
海外では農地と宅地は明確に区分されているが、日本の場合には市街化調整地域が市街
化地域に変更されるケースが多い。よっていつか市街化地域に変更となって土地の価格
が上がる事と期待して、実際に農地として使用していない土地を手離さない。
C 農地価格の高さ
上記の結果からもし、農地を手離すとしても高値期待が出て農地の売買価格が高騰する。
結果、生産コストから買えない農地が増えてしまう。
D 高米価政策の弊害
保護されている米の育成は、実はもっとも手間の掛からない作物となっている。
高米価政策の為、土地を手放したくない兼業農家が減らずに農地集約が出来ない。
E 零細兼業農家への過剰な保護
前述と同様に土地を手放したくない兼業農家が減らずに農地集約が出来ない。
F 伸びない単収
今や日本の米作は、手間の掛からないアメリカの単収より30%も低くなっている。
これも上記の過剰な保護の結果である。
G 農協の横槍
米価格の低下を避ける方法として先物取引があるが、この米先物取引きに対して農協は
猛反発した。理由は、先物取引が始まると農協が価格統制が出来なくなるからである。
もはや農協は農民の為にあるのでは無く、農協自体の為にあり、その結果、農民にその
しわ寄せが来ても関係ない存在になってしまっている。

この本、なかなか言えない事をずばっと言っている本である。




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