NO,009

■ 海に沿うて歩く

10月

著者:森 まゆみ
出版:朝日新聞出版

最近、本をぱらぱらとめくって数行読むとなんとなくしっくりとくる本に出会う事がある。
その行間のバランスや言葉のリズムが、なんとなく心地よいんである。
そんな本は、読み終えた最後の時にこれまたなんとなく清々しい気持ちになる。
こんな本に出会えると、自分の時間を有意義に使えた気持ちになってくる。
本書は、そんな本である。

ところで、読んでいて途中で気が付いた事があった。
本書の著者は雑誌「谷中・根津・千駄木」の創刊者でもあり、近代建築の保存運動や地域活性の
在り方を研究する活動する現代の民俗学の実践者の顔を持っている事である。
あとがきを読むと、宮本常一の影響を受けていると本人が言っている。

UKIの通った高校は鶯谷にあり、谷中は帰宅路のよい散策路でもあった。
その頃「谷根千」ブームはまだ無く、雑誌「谷中・根津・千駄木」もまだ創刊されてはおらず、
知る人ぞ知るといった感じだったが、江戸下町の情緒が残る長屋や土蔵や瓦塀や杜の緑が残って
いて、妙に懐かしい雰囲気がするその界隈を夕方の一刻、何とは無しに散策するのが、満足りた
瞬間でもあった。
思えば、その頃から民俗学に興味を持ち、下町風情が残る景色をスケッチしていた記憶がある。

本書を読んでなんとなくと感じたのは、そんな多くの共通する思いが伝わってきたのだろうか?
いわゆるなんとなく共通の匂いのする本である。

ところで、本書はタイトルの通り小さな漁村を歩き、昔ながらの生活の匂いの断片を綴っている。

ちなみに蛇足だが、著者の内面が出てくるのが本文よりあとがきにあるとUKIは常々思っている。
そういう意味で、本書はあとがきもなかなかのものである。
あとがきがいいなぁ〜て思う本にハズレはないね。




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空の写真 今月の本(2011)
面白かった本などを紹介します。
2011年に読んだ本の中からの紹介です。