地域学のすすめ

NO,014

■ 地域学のすすめ

12月

著者:森 浩一
出版:株式会社 岩波書店

民俗学が好きである。
昔は、折口信夫や柳田国男を読んでいたが、最近になって宮本常一を読み始めて嵌り、
「行動する民俗学・足で調べる民族学」に興味が湧いてきた。
本書の著者も、足で行動する民俗学者である。そんな姿勢が本書からは伝わってくる。
本書の中で気になる点が、壱岐などの比較的昔の習慣が残る地域の風習や農具、日常
食器の形態が、中国の雲南省とよく似ているとの指摘である。
海を隔てた上海などの地域ではなく、その奥の山間地の雲南省と日本がどんな関係が
あるのか、大変興味をひかれるものがある。

本書のタイトルである地域学は、大変重要な課題かと思える。
その地域の伝承や、記録をひも解く事で、地域での特殊性を他地域との交流などから
一律ではない民俗学がより立体的に見えてくる。その際、書物ではわからない実情を
現場を歩く事で立証されていく。
一例として、魏志倭人伝で対馬の項で、路は鹿や猪が通るけもの路しかないと書いて
あるのを、実際に対馬に行くと昔の道は皆そうであった事を著者は確認する。
こんな事は、それまでのどんな文献にも書いていない新しい事実であった。これで、
魏志倭人伝の著者は、実際に行った人から聞いた内容を著わしていて、対馬について
の他の記述も間違いはないであろうと推察している。
これは、文献だけを頼りにする事よりも大切な事である。

各地の大きな図書館には人文館が併設されており、その地域の様々な古文書や、市井
の研究家が調べた記録が残っている。
全ての生活の跡が史跡として残されないのは、当たり前であるが、その記録がここに
集約されている。せっかくインターネットが普及したのだから、たとえばこの資料を
スキャニングして一般に公開して、それをウィキペディアのごとく一般の人が読んで
注釈やインデックスを付ける事でより見やすく、検索性が高まり利用度が上がって、
さらに研究が進むのではないかと考えるのだが、どうでしょう?
今後、老後の時間をもてあそぶ世代が増えるのだから、昔を知る人の知恵を活用して
楽しめるお金の掛からない時間の過ごし方が出来るかもしれない。




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