NO,010

■ 温泉めぐり

   8月

著者:田山 花袋
出版:株式会社 岩波書店

まだ、道路には自動車が走り始めたばかり、馬が引く馬車が走り、鉄道も
幹線だけ、人は歩いて峠を越えていく時代に、全国の温泉を歩いて周り、
本にした作家がいた。

著者は、明治から大正に掛けての著名な作家である。その文体は、七五調
の日本語の独特のリズムを持ち、じっくりとした趣のある文体でもあり、
読んでいると何だかほっとしてくる。

この人北は北海道から南は九州、はては韓国や中国まで温泉に入っている。
不思議と沖縄、台湾には行っていません。

明治も後半になり、工業が栄え、人々が都市に集まり行楽として温泉巡り
をするようになる。当時も温泉ブームだったようである。
当時、温泉を巡るのは、主に歩いて巡る旅だったようで、何日も掛けて峠
を越えていく長期間の温泉旅行だった。
当然、山をめで騒音の無いのんびりとした時間が過ぎていく今では想像が
出来ない世界だったのだろう。

ちなみに、紹介されている温泉は、
日光湯元、伊香保、草津、諏訪、片山津、伯耆、湯村、磯部、薮塚、西長岡、
八塩、別府、熱海、伊東、伊豆山、湯河原、箱根、湯が島、小河内、田沢、
蓮台寺、亀川、修善寺、伊豆長岡、古奈、土肥、堂ヶ島、四万、河原湯、
沢渡、湯田中、燕、安代、渋、沓掛、霊仙寺、本沢、鹿沢、妙高、赤倉、
別所、白骨、中房、塩山、下部、菰野、有市、笠置、入之波、宝塚、布引、
生瀬、湯の峯、鉛山、武田尾、諏訪山、有馬、城崎、道後、山中、山代、
和倉、芦原、白山、立山、西鐘釣、少黒部、入黒薙、湯沢、松の山、栃尾又、
野沢、如法寺、矢田、北潟、岩室、関屋、瀬波、飯坂、塩原、那須、甲子、
磐城湯本、熱海、東山、上の山、湯の浜、熱塩、折木、庭坂、温湯、土湯、
穴原、船場、五色、少原、遠刈田、青根、秋保、作並、鳴子、川広、車湯、
鰯湯、滝の湯、星ね湯、駒湯、志戸平、大沢、鉛、台、網張、浅虫、大鰐、
板留、鷺の湯、浜村、吉岡、玉造、武蔵、嬉野、栄の尾、登別、北投、
熊岳城、五龍背、などなど、
この人とんでもない程温泉に行っています。

この時間に流れる感覚と風景は、映画虫師の中での生活であり宮本常一の
世界でもある。この空気感を実体験出来る場所は、今はどこにもない。


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空の写真 今月の本(2013)
面白かった本などを紹介します。
2013年に読んだ本の中からの紹介です。