NO,012

■ 村の幸せ都会の幸せ

   9月

著者 徳野 貞雄
出版 日本放送出版協会

これからの日本の農を考えた本。この手の本は数多いが、本書は、なんと
なく違う。何が違うんだろうと読んでみた。

まず、著者は、農学者では無い。著者は、行動する地域社会学の先生である。
現場に出向き、あらゆる現象に立ち向かい、裏付けを取って解明していく。
ある種冷徹な目を持たなくてはならない。
また、併せて取材をしなくてはならないから、初めて出会う人とコミュニケー
ションを取らないとならない。そのためには、基本的に人が好きでなくては,
勤まらない。
冷徹でかつ人が好きという難しい性格を持った人は、数少ない。
そんな人には、ある種変わった発想をする傾向がある。これがその人の魅力
ある人間臭い個性を醸し出してくる。

本書は、そんな人間臭い個性が随所に現れている不思議な学術書?である。

読んでいて感じるのは、まず、人生は変化と意外性があるから楽しいという
事を教えてくれる事である。
ちなみに、本書にはそんな事は一言も書いていないが・・・

が、そんな気分にさせてくれるエピソードが、本書にはいくつか取り上げられて
いる。
例えば、少子化に悩む限界集落で子供が増え小学校閉鎖を食い止めたケース、
ある村で子供を産んだ夫婦が、このままでは自分の子供が通う事となる小学校
が閉鎖されてしまう事に気が付く。それを打開しようと、村の同年代の複数の
夫婦をそそのかして子供を作らせる。

また、村の活性化のために、著者とその教え子の若い女性が呼ばれる。
謝礼は同額である。主催者に聞くと著者の先生は、まっとうな事を言うのは、
わかりきっているからいてもいなくともどうでもいい。とりあえず、全体の流れを
把握してくれれば良い。
若い女性は、いるだけで村の若い男性が会に積極的に参加するし、また、突飛
な意見でもひょっとしたら化ける可能性があり、それなりに価値があるんだと
主催する農業経営者に言われたりと、ここには、日本の農業は、かくあるべき
と言った大上段に振りかざしたものは無い。

また、本書で興味深いのはグリーンツーリズモについてである。
日本の場合、地域活性化を行うために海外で流行っているグリーンツーリズモ
を進めようと発想されているが、海外のグリーンツーリズモは、生まれるべき
その土壌があって必然的に生まれたものである事に気が付いていないと指摘を
している。これに対して、日本の場合には、その必然性が無いと言っている。
これは、物事の本質を着いた重い一言である。

最後に蛇足だが、著者が道の駅の命名者だそうである。へぇ〜。


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2013年に読んだ本の中からの紹介です。