庶民の発見

NO,008

■ 庶民の発見

   6月

著者 宮本 常一
出版 株式会社 講談社

この歳になると本に書いてある大抵の事は、一度は聞いた事があり初めて知る
感動は、年々薄れていく。その内容を熟知していれば、それはそれでしっかり
とした知恵袋として語れるのだが、うろおぼえだったり間違えて覚えていたり
すると、たちが悪い。

そんな年々中途半端な感覚で本を読む事の楽しみが減っていくなか、久し振り
に知らない事だらけの話が満載で、ページをめくるたびにわくわくする感動を
もたらしてくれたのがこの本である。

具体的にどんな初めて知った事が載っているか?
例えば神主の成り立ち、昔、地域の長が一族の氏神を祭っていたが、律令制と
なり、長一族は都に召還させられる。
氏神を守るべき人が居なくなり、すでに一族の氏神から地域の守神となった神
を残され人々が、交代に面倒を見るようになる。

しかし暦に合わせ物忌みなどを守り、しょっちゅうお籠りをしないといけない。
これでは、仕事にならなくなり職業として専門に世話をする人々が増えて来た。
これが、神主の始まりらしい。これ、初めて聞いた話である。

また、これも初めて知った話だが、盗賊に襲われないように厚い土蔵のような
窓も無く、入口のみしか無いぬりごめという部屋に毎日寝ていたという。

また、婿の語源が迎えるという通い婚の名残りからだったりとか

農業土木に長けた人達を黒鍬師と呼び、彼らはまた鉱山関係者でもあったとか

隣との土地の境目をはっきりさせるためには、境目に木を植えると何代か後で
この木はうちの木だと言って勝手に切り、その木の端からが境目だとされて、
損をするのでいけないとか

濃密な地域で暮らす人達は普段はおとなしく、静かで目立たないよう心掛ける。
が、いざ何かあるとその才能を発揮する。普段でしゃばりもせずに互いに温厚
に暮らす事が美徳であり、濃密な人間関係をさらりと過ごす知恵だったりする。

また、躾について西日本では、基本的に以下五つの言葉を身に付ける。
曰く、もったいない おかげ バチ 義理 恥 であると言っている。
極めて日本らしい言葉である。

また昔話と民話の違いやイタコ、狐憑き、オシラ様など今は忘れさられた事柄
が多く語られている。これこそ、中学の教科書で扱う内容ではないのだろうか。

日本の風土やここで暮らした人達の事を理解し、その上に自分がいる事を自覚
する事は、とても大切な事だと考える。
最近、東南アジアの各地に行くと現地のガイドの方々は、皆、自国の成り立ちや
風習や歴史を語る。同じように海外から日本を訪ねてくる人達に同様に語る事
が出来る日本人が今、どのくらいいるのだろうか?
こういう事を語れるのが本来の文化の深さではないんだろうか?

ちなみに、今まで多くの宮本常一の本を読んできたが、本書はその中でも一、
二を争う名著ではないだろうか?


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空の写真 今月の本(2013)
面白かった本などを紹介します。
2013年に読んだ本の中からの紹介です。