古事記のコード

NO,004

■ 古事記のコード

  2月

著者:池田 潤
出版:戎光祥出版 株式会社

なんだろうと数ページ早読みして、これは面白いと読み始めた本、
古事記を地理学から紐解いた、面白い視点の古事記研究書である。
こんな本は、文献主義の日本史家からは、絶対に出てこないで、
あろう歴史の解説書である。

本書では、難解な古事記を深読みせずに地名という客観的な事実
を抽出し、それを地図にプロットして、その位置関係を古事記に
書かれた時間軸に沿い、線を引く事で見えてきた事象を考察する
といった極めて、単純な作業により古事記を読み説いていく。
夏至の日の出の方角に、富士山と伊勢と足摺岬と笠沙岬が一直線
に並び、大和と高千穂が同様に一直線に並ぶ。佐渡と珠洲と出雲
と壱岐がこれまた夏至の日の出の一直線に並ぶ。そして、富士山
と大和と出雲は、みな北緯35度21分にあり長安や洛陽もこの
緯度にある。
この事から、天皇一族のルーツは中国にあり東征のルートやその
後の近畿征定や東国征夷やその後の東海海路、日本海海路の整備
の様子が見えてくると言う。

本書を読んでいくと、古事記は難解でも、滅ぼした一族の歴史を
隠蔽したのではないかと勘ぐる必要が無い、比較的シンプルな書
ではないのかと思えてくる。
例えば、イザナギとイザナミがプロポーズした際、妻からプロポ
ーズした結果、異常児が生まれたのでもう一度夫からプロポーズ
し直して沢山の神々を生んだというエピソードは、当時の習慣、
すなわち、プロポーズは男からという習慣が、現代でいうところ
の法律に近い位置付け、いわゆる習わしに近いものだったので、
あろう。
それがなかなか守らないので、当時の人々が守るにはどのような
喩えがいいのかという事で落ち着いたのが、この表現ではないか
と思えてくる。

たかだか二百年前の川柳に「その顔で辛子を掛けとかかにいい」
というのがある。
が、この川柳が初鰹の事を歌った川柳だと知っている人は少ない。
鰹の一文字も無いのは、何も隠すのでは無く、その言葉に触れな
いでははぁ〜と気付かせるのが粋であり、深みがあるいわば文学
的表現なのである。
たかだか二百年前の表現でもこれだから、千三百年前の粋な表現
など理解を超えていて当然である。
天の岩戸のくだりで、ほとに紐を垂らすなんて、現代ではポルノ
小説くらいしか書かない表現でも、当時としては最もポピュラー
なギャグネタだったのかもしれない。回りくどいそのものズバリ
と云わない表現が、奥ゆかしくも格調高い文学的表現だったのか
もしれない。

そう考えると、古事記は割合シンプルで、地名などの客観的事実
を時系列に整理して考えると、今まで見えていなかったものが、
見えてくるかもしれない。
その意味で、本書は、興味深い歴史書かもしれない。





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