NO,006 ■ ノラや 　　７月 著者：内田 百�� 出版：中央公論社 内田百�閧ﾌ随筆は、「阿房列車」が有名だが、ひょっとしたら 本書の方が、優れた随筆ではないかと思われる一冊である。 ある日、紛れ込んだ雄の子猫に付けた名前がノラである。 そのノラが、ある日を境に帰ってこなくなる。心配で心配で、 何も手につかなくなる百鬼園先生、尋ね人を捜すように警察に 相談したり、尋ね人の新聞広告を出したり、新聞折込みチラシ を何回も作ったり、それも大使館などに勤める外国人が近くに 多く住んでいたので、英文の新聞折り込みチラシを作ったりと 大変である。 そのうち、ノラに似た猫が紛れ込んできたのでクルツと名付け 世話をする。クルツの面倒で日々を追われ、今時ノラはどこで、 何をしているのだろうと思いを馳せて、思わず涙する。 百鬼園先生、忙しくて大変である。 そんな日々の心の変化を、丹念に自分の気持ちを素直に文章に 綴る。時に可笑しく、時に思わず同情したくなる。 ＵＫＩも家に猫が二匹いるので、そんな気持ちは良く分かる。 猫を飼った事が無い人には、分からないかもしれないが、猫を 飼った事がある人にとっては、内田百�閧ﾌ気持ちは痛いほど、 分かる随筆である。 ところで百鬼園先生の文章は、時として腹を抱え笑ってしまう ようなユーモア溢れる表現が出てくる。 今回、ＵＫＩが嵌ってしまった一節がこれである。 ノラがいなくなり、チラシを見た人から連絡がある。その中の ある人が、猫捕りにとられて皮を剥がれ、三味線に張られて、 美人の膝に乗っているだろうから、ノラも幸せだと言う。 これを聞いた百鬼園先生曰く、 「すぐにさう云う事を連想する人の御先祖は何をしてゐられた のかと疑わしくなる。」 かなりむっとして怒っていらっしゃる。 まあ、そう聞けば怒るけど、その怒り方が可笑しい。

● 今月の本（２０１５） 面白かった本などを紹介します。 ２０１５年に読んだ本の中からの紹介です。