忘れられた日本人   

NO,003

■ 忘れられた日本人

  4月

著者 宮本 常一
出版 株式会社 岩波書店

かなり以前、「今月の本」のコラムで「「忘れられた日本人」の
舞台を旅する」という本を紹介したが、その著者を魅了し、本を
書くまでに至った原点となるのが本書である。
この「忘れられた日本人」という本、改めて手に取り読んでみた
ところ、今まで読んだ気でいて実は、まだ読んでいない事に気が
付いた。なので、ここで改めて紹介したいと思う。

宮本常一の著書は、どれを読んでも、非常にインパクトがあり、
こんな生活が日本にあったのかと、初めて知る事が多い。その中
で本書は、特にその印象が強い。本書を読んで、その地を歩いて
みたいと思い、その末に「「忘れられた日本人」の舞台を旅する」
を著し、ついに周防大島文化交流センターの学芸員となった木村
哲也や、宮本常一に魅了され、その痕跡を辿り「宮本常一を歩く」
を著した毛利甚八など、足で歩く民俗学を実践する人は多い。
そんな人に対して、本書は、多くの影響を及ぼしたのではないか
と感じる。

ここに書かれている人々の話は、歴史書には書かれないいわば、
埋もれた歴史でもある。
その題材は、

村人が言いたい事を全て言い、全員が納得するまで話し合う対馬
での寄り合い行事と民謡が歌われた本来の意味。

寄り合いの席で、話の方向を修正し、時には声の大きい人を黙ら
せる年寄りの役目を聞いた諏訪での話。

狭い地域で、互いが相手に気付かれないように行う気遣いや、昔
の夜這いの仕方が語られた名倉での話。

子供がいなくなった時に、村中総手で探す事となるが、その子が
居そうな場所を各々が熟知していて、号令する事無く各々がバラ
バラに、一斉に村中をくまなく探して見つけだす周防大島での話。

嫁入り前の娘が、世間を知る為に家出して四国を廻る事が、代々
のならわしだった、これも周防大島での話。

奔放に性を謳歌した「土佐源氏」の話。これは有名な話。

いつつかむっつのみなし子を「メシモライ」といって漁師の船に
乗せ、そんな子供を皆で養う風習があった対馬での話。

民俗学を志す元となった、著者の祖父の話。

自由奔放に生きた「世間師」と呼ばれる人達の生活を聞いた山口
と南河内での話。

地元の風習を文字にして残し、人文学の礎となる資料を作成した
島根と隠岐と福井と奈良と福島での話。

何人かの登場人物から語られる、今は忘れられた人々の生活が、
ここにはある。本書は、紛れも無い名著である。







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