■ 横濱中華街物語

  9月

著者 林 兼正 小田 豊二
出版 株式会社 ホーム社

何気なく読み始めた本だったが、途中から俄然面白くなり、一気に   
読み終えた本である。

我が町横浜。と言っても、我が家は横浜の外れで此処が横浜?と、
横浜生まれの人からよく言われるのだが、そんな場所に住んでいる
せいか、時々は横浜中華街に出掛けて中華料理を食べたり、中華の
食材を買ったり、お茶を飲んだりする。
もう長い間ここに住んでいるので、横浜中華街に知り合いも出来て、
出掛けたら顔を出し、横浜中華街の最近の面白い話題などを聞いた
りするのが、最近の楽しみである。

そんな中華街の昔の様子が知りたくて、本書を読み始めたのだか、
良い意味で期待を裏切られた本である。

著者が二名なのは、一人は、横浜中華街で現存する、最も古い中華
料理店の「萬珍楼」のオーナー、林兼正氏で、もう一人が、林氏の
話を聞き書をした、作家の小田豊二氏である。そして中華街の歴史
もさる事ながら、その林氏の生い立ちがなかなかに面白いんである。

林氏は「萬珍楼」で長男として生まれ、スパルタの父の元、自らが
学んで行かないと何も身に付かない事を幼くして覚える。中国人と
いう事で差別されるも、人はそう考えるものだと受け止める。
中華学校で習う時に使う言葉は北京語で、家で使う父の故郷の広東
語とは違う。なので苦労しながら、日本語、広東語、北京語を使い
こなすようになる。

高校生の頃、アジアで自国に進出した中国人を排斥する運動が起き、
中国でも文化大革命が起こる。何処にも逃げる先が無くなったのが
きっかけとなり日本国籍を取得する。しかし、もしもいざとなって、
日本にも居られなくなったら、最後に受け入れてくれる国として、
アメリカに行こうと考える、その為には英語を話せなくてはならず、
英語を話せるようにとアメリカンにスクールに通い出す。

当時は占領軍が駐留していたので、アメリカ人は特権階級的な扱い
であった。クラスメートの外国ナンバーの自動車で、東京の街中を
我がもの顔で走り回る。そして、六本木のニコラスや銀座のバー、
赤坂のクラブなどに出入りして、トーキョーアンダーグラウンドに
も顔を出す。
学生の身分でよくそんな場所で遊ぶお金が手元にあると思ったら、
その軍資金は、ダンスパーティーを開きパーティー券を売ってその
お金で遊んでいたという。商売人の息子だけはある。

そのアメリカンスクールの学費が余りにも高いので、横浜のセント
・ジョセフに編入する。ここでは、何事にも厳しく試験に落ちると、
容赦無く落第させられる。全てが自己責任である。
なので教師は怒らずにいつもニコニコしている。ここで林少年は、
責任は最後には自分に振りかかり誰も助けてはくれず、人生は自分
で切り開いて行かなければならない事を知る。

そしてここでもダンスパーティーを開いて、フェリスや近くの学生
を集めて、大いに賑わう。このダンスパーティーを通じて、異性と
の付き合い方を学んで行く。今でもそうだが、当時の日本では考え
られないような欧米スタイルの大人になる訓練をここで学んで行く。

さらに、赤坂のクラブではホステスの相談役となり、彼ならではの
アルバイトを行う。
それは、金払いの悪いお客の社長さんに集金に行くのである。
その方法が、大変に面白い。

まず、相手の会社の担当の秘書に、英語で社長に大切な話があると
アポを取る。日本語で電話をすると大抵断られるが、英語だと必ず
アポが取れたんだそうである。そして、ビジネススーツをきちんと
着て、相手の社長さんに会うと、余りにもこちらが若いので相手の
社長さんが拍子抜けするらしい。
すかさず「最近、お店にいらっしゃっておりませんね。」とやると、
大抵の社長さん、その月にはお店に顔を出し溜まったツケを払って
くれたそうである。

普段日本で暮らす日本人にとっては、思いも寄らない生き方がここ
にはある。彼こそ、真の国際人なのであろう。

ところで・・・
著者が最後に日本の非常識として、ふたつ挙げている。

一つは国籍。
世界の常識として、その国で生まれた又は、その国の人間になった
証明として国籍を新たに取得するのだが、日本の場合、国籍を日本
に変えた場合は帰化するという。日本国籍を取得した後でも、帰化
したと別扱いをする。このような表現をするのは日本だけである。

二つ目は入国する際の事。
空港などの入国審査をする場所をイミグレーションというが、その
イミグレーションの本来の意味は、日本語では移民である。
移民を受け入れない日本が、入国監理をイミグレーションと言うの
はおかしいのでは?

と・・・

そして、最後にとって置きのいい話が載っている。
これは、読んでみてのお楽しみである。










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